
ライター夕花みう
「ねぇ、おねーさん」
「えっ、わたし?」
わたしは思わず聞き返してしまった。なぜなら、声をかけてきた相手はテカテカと光沢のあるスーツに、重力に逆らいまくった髪型をした、いかにもなホストだったからだ。
対するわたしは、ギャル丸出しの高校生。ルーズソックスのブームはもう過ぎ去ったとされていたが、わたしの地元ではまだ一部のギャル集団で健在だった。ベージュのカーディガンにピンクリボン、思いっきりたるませたルーズソックス。
いかにもなJKと、いかにもなホストのそんな出会い。
ブランド物以外に金を使う所はたくさんあるだろう
なんとなく連絡先を交換したわたしと彼は、そこそこに連絡を取り合うようになっていた。今までホストと知り合ったことはなかったので、『男図鑑を充実させたい』と常々願っていたわたしは興味津々だった。『男を知り尽くしたい』という願望のみで動いていた私は、何か真新しい一面を持った“どこかヘンな奴”に興味を覚えるのだ。
彼とのデートは午前中が多かった。なぜなら、彼は「二部」と呼ばれる形態のホストとして働いていたからだ。夕方に会うときはいつも眠そうにしていた。
彼はやたらマメなデコレーションメールをくれたが、待ち合わせには絶対に遅刻するタイプだった。そして、いつもマックを食べていた。マックを食べまくっている人は、なぜかどれだけ歯を磨いても、マックのあの独特な臭いが染み付いているものだ。カラオケボックスでキスをしても、わたしはいつも『うっ、マック臭い…』と思っていた。
夜はそれなりのホストの端くれに見える彼だったが、昼間に見れば髪の毛がパサパサしていて枝毛がすごい。肌も不健康。おまけにいつも同じような服を着ていた。ヘアメイク前の髪型たるや悲惨で、売れないバンドマンのようだった。まぁ、カテゴリー的には売れないホストも同じである。
そして、いつもブランド物の話をしていた。「○○を買った」とか、「○○が欲しい」とか。ご丁寧に、「値段は××円で…」と付け加えるのも忘れない。わたしは助手席に乗りながら、『それ以外に金を使う所はたくさんあるだろう』と思っていた。
極め付けはセックスだ。ラブホに行くときなんかたまにの話。カラオケボックスや、漫画喫茶で済ませることが多かった。不衛生だ。彼は汗をかきやすいのか、仕事終わりだからなのか、チンコがいつも臭かった。性病の臭さではない。きっとあれは生活習慣の乱れから来るものだと思う。
「俺、副業の方が今は儲かってるんだよね…でもそのうちナンバーワンになってみせるよ!」
キラキラした笑顔でそう言ってくれた彼との関係も、店のナンバーワンどころかお互いのナンバーワンになれたかすら定かではなかった。そのうち、付き合いは段々となくなってしまった。シャンパンの泡のように。今もきっと売れていないままだろう。
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