
ライター夕花みう
わたしがまだ高校生の時の話である。当時は、出会い喫茶が真新しいものとしてもてはやされていた。
「ティッシュだけもらってってよー」
ソッチ系な雰囲気漂うスーツのお兄さんが、駅でひたすら女の子に声をかけている。わたしと友達のAはいわゆる悪友というやつで、ひたすらナンパ待ちをしてみたり、未成年ながらクラブに行ってみたりしていた。そんな“フツーの遊び”にも飽きてしまったわたしたちの、よくあるお話。
登録するだけでお小遣い
毎度毎度、同じ場所で出会い喫茶のティッシュを配っているお兄さん。「薄顔で悪そうな人」というわたしの好み直球ど真ん中を突いていたため、段々とわたしは出会い喫茶にも興味を持ち始めた。何せ、高校生である。わたしの家は非常に厳しく、アルバイトも禁止されていたためお金がなかった。ティッシュに書いてある、『登録するだけでお小遣いプレゼント!』という謳い文句にも心惹かれてしまったのである。
そしてある日、ついにわたしたちは出会い喫茶の門をくぐることにしたのだ。
面接に行くと、簡単なプロフィールの記入と身分証明書の提示を求められた。身分を明かすようなものを見せることに抵抗はあったものの、その場の雰囲気で書いてしまった。
なんちゃってキャバ嬢気分
待機部屋に通されると、無料で飲める飲み物・お菓子・マンガ・コテなどがたくさん並べてあった。
「うわーっ、すごっ」
Aとわたしは目をキラキラさせる。お金がなかったわたしたちは、マックにドリンク一杯で三時間居座るなんて日常茶飯事。
そしてわたしたちは「交通費」というお小遣いにも心躍らせていた。
(デートするだけでお金がもらえるなんて、最高!)
待機している場所も暇つぶしには困らなさそうだ。しかも、制服で行けるということも大きな魅力。着替えるまでもなく、そのまま店に寄って閉店まで遊ぶことが、わたしたちのお決まりのパターンになった。
待機をしている女性たちは、マジックミラー越しに見ている男性から指名が入るとトークルームに移動する。そして、砂時計のタイマーで時間を計り、雑談やデート内容の相談をした後、外出するかしないかを決定し、店員に報告することになっていた。
また、この指名がわたしたちには快感だった。「今日は○人から指名されたんだ」と、まるでキャバ嬢になった気分でAとわたしは報告しあった。
「どんな服ならいっぱい指名がもらえる?」
「どんな化粧なら?」
割り切りを求めてくる客も多かったが、わたしたちはそれは好まなかった。今となっては赤っ恥だが、“デートがお金になるということ”を誇りに思ってしまっていたのだ…。
そしてある日、事件は起きる。
前略、補導されました
遊ぶのに困らない程度のお小遣いを手に入れ、出会い喫茶に通う友達ともすっかり仲良くなってきたわたしたち。だが、条例が変わるため、来月から女子高生は入店できなくなるという。「新しくエステの仕事がある」とお店から紹介されたものの、エステは怪しさが満点だった。
その月の最終日、わたしとAは早くから出会い喫茶に向かった。いつも通り、すぐ指名が入る。いきなり指名してきた男性は、なんだか割り切り希望のような雰囲気を醸し出していた。交通費は外出したときにしかもらえないので、なんとかうまく約束をせずに外出し、断ってデートだけをして店に戻るのがいつものことだった。
…と、男性が異変に気付いた。
「後ろ、尾けてきてる」
その時の切羽詰まったような横顔は今でも忘れられない。わたしも、顔から血の気が引いた。
「ちょっと」
トントン。急ぎ足も空しく、肩を叩かれる。勝気な感じの中年女性が、警察手帳を見せてきた。汚いものでも見るようにわたしたちを見る。
「署まで来て、話を聞かせてもらえる?」
“若さ”のおねだん
割り切り、援助交際と決めつけられて、反論も空しく事情聴取という形になってしまった。事情聴取というよりは、「なんで体なんて売ってるの!?」とひたすら咎められたのを覚えている。実際は違う、わたしは…なんて言おうとしても無駄だった。
だが、やはり彼らにとっては“若さ”を売っている不良女子高生であることに違いはないのだ。脱いでいようと、いまいと。本番していようと、していまいと。
後日談だが、友達を指名した客たちは既に警察が張り込んでいることを知っており、デートは建物内のみ。「ハグのみで5,000円とかで美味しかったよ」なんて万札を何枚か財布に入れていた。そしてまた、その不運幸運を嘆く資格もわたしたちにはないのだ。
コメントする(承認制です)