友人の吉田が出会い系で拾った女のせいで、色々と面倒な事に巻き込まれた。
僕が吉田にその女を紹介されたのは半年ほど前のことだった。彼は大学で一緒だった男で、何となく気が合い卒業後も時々飲みに行ったりする仲だった。
お前んちのアパートに空き部屋はないか
女の名前はかおりと言った。どう見ても30代半ばくらいにしか見えないから、吉田より10歳も上になる。
「お前、年上好きか?」
僕はかおりに聞こえないように言った。
「いや」
吉田は苦笑いしている。
僕も吉田の気持ちはよく分かる。
かおりは肉感的な女だった。白くて透き通るような肌をしている。プロポーションもいいし顔もまあまあだし、それに何と言っても胸が大きい。
Eカップくらいありそうな胸は、かおりが笑うだけで悩ましく揺れるのだ。
吉田がこの女を抱いてみたくなったのも無理はなかった。僕だってもし出会い系でこの女と会ったら、何が何でも口説き落としたに違いない。
かおりはそれほど男受けのする体をしていた。
吉田は僕に頼みがあるという。
「お前んちのアパートに空き部屋はないか」
僕の親はアパートをいくつか持っていて、僕もその中の1つに部屋を借りている。
とは言っても親から借りてるわけで、家賃は全然払っていないのだが。
「空き部屋ならあるよ。俺の部屋の隣が空いてる」
「良かったー」
吉田は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「そこ、借りられないか。もちろん家賃は払うけど、敷金と礼金をまけてもらえるとありがたい」
吉田が手を合わせて僕を拝む。
(なるほど、この女を住まわせる気だな)
僕はピンときた。
「いいけど、何に使うんだ」
ちょっと意地の悪い質問をする。
「いや、ちょっとな」
「あの…それ、私がお願いしたんです」
かおりがそう言って立ち上がり、僕のほうに近づいてきた。
僕たちは公園のベンチで話をしていたが、数メートルも離れていないところに女が座っているから、会話は全部聞こえている。
「分かった。親に頼んでおく。明日からいつでも越してきていいから」
僕は2人にそう約束した。
あの女、ちょっとヤバイかもしれん
家に帰って親に事情を話す。もちろん全部言うわけにはいかないが、隣の部屋を知人に貸したいから、敷金をナシにしてくれと頼んだ。不動産屋を通さないから礼金もかからない。
僕の親はあまり詮索したりしない。放任主義というのか、僕がすることに干渉しないのだ。
父親は、「そうか」と言っただけで承諾してくれた。
早速不動産屋に行って隣の部屋の鍵を預かってくる。後はそれを吉田に渡すだけだ。
吉田に電話すると、すぐに鍵を取りに来た。
「ありがとう」
敷金と礼金がいらないことを話すと、彼はこれまでに見せたことのない笑顔で帰って行った。
翌日、かおりは僕が出かけている間に引っ越してきていた。
たぶん吉田も手伝ったのだろう。
夕方、玄関のインターホンが鳴ったのでドアを開けると、かおりが立っていた。さわやかな柑橘系の香水が鼻をくすぐる。
かおりは安く借りられたことのお礼を言って、これからよろしくと挨拶した。
翌日、吉田がやってきて隣の部屋に招かれた。中はまだ片付いていなかったが、家具などはあまりなかった。
かおりが寿司を取ってくれて、3人でビールを飲んだ。吉田はそのまま泊まって翌朝帰ったようだ。
それから吉田はかおりの部屋にたびたびやってきては、僕の部屋にも顔を出していたが、半月も経つとパッタリ姿を見せなくなった。
かおりが越してきて1ヶ月くらい経った頃、夜中に隣のドアが乱暴に閉まる音で目が覚めた。しばらく男女の話し声が聞こえていたが、やがて何も聞こえなくなり、5分ほど経つとベッドが軋み出して、同時に女の喘ぎ声が聞こえてきた。
(吉田の奴、こんな時間に何してるんだ)
僕はそう思いながら眠りについた。
それから数日後、今度は昼間に話し声が聞こえてきた。男と女が言い争っているような声だったが、男の声は吉田ではないようだ。
僕は吉田の携帯に電話をかけてみた。
「どうした」
電話に出た吉田のバックに聞こえるのは、街の雑踏の音だった。
「お前、どこにいるんだ」
「駅前だよ」
どういうことか分からない。隣の男の声は誰なんだ?
「隣に誰か来てるんだな。俺はもうかおりとは関わらないことにしたから。お前もそのほうがいいぞ」
「意味が分からないんだけど」
「あの女、ちょっとヤバイかもしれん。俺もよく知らないんだけど」
要領を得ないまま、吉田の電話は切れた。
あいつらのことは知らないほうがいい
そしてその日の夜、事件が起きた。
午後8時頃だった。インターホンが鳴ったのでドアを開けると、かおりが立っていた。顔が青ざめている。
「あの、ちょっと中に入れてくれませんか」
かおりは落ち着きがなく、しきりに階段のほうを気にしていた。
アパートの2階には部屋が5つある。僕の部屋は一番端で5号室、かおりの部屋は4号室だ。そして、1号室のそばに下から上がってくる階段がある。
かおりが見ていたのはその階段の方角だった。
「どうぞ」
ただならぬ様子に、僕はとにかく彼女を中に入れた。
「電気消して!」
かおりは声をひそめて言うと部屋の隅にうずくまった。明らかに誰かに追われている様子だが、彼女はたった今自分の部屋から出てきたはずだ。
ということは、誰かが来るのか。僕はいつかの言い争う声と、夜中に聞いたかおりの喘ぎ声を思い出していた。おそらく、かおりが恐れているのはあのときの男だろう。
かおりは隣に住んでいても、吉田の彼女だから僕にとっては遠い存在だった。それがこうして部屋に入れたことで、急速に彼女との距離が縮まるのを感じた。
果たして、3分もしないうちに階段を上がる靴音が聞こえてきた。
靴音は1人ではなかった。2人。いや、3人か。
歩きながら何か話しているようだが、会話は聞き取れない。
かおりの部屋の前で靴音が止まった。
男たちは、インターホンを押して返事がないとドアを叩き出した。
「いねえのか」
「さっき電話したときはいたんだからな。逃げる暇はないだろ」
男たちは口々に叫んでいる。かおりは顔を伏せたまま膝を抱えていた。
2、3分経つと、男たちは引き上げた。僕は喉がカラカラになっていた。
「帰ったよ」
少しひきつれた声でかおりに言う。
「離れたところで見張ってるかもしれない」
「誰なの、あいつら」
「知らないほうがいい。それより、今夜ここに泊めてくれない?」
そう言ってかおりがしがみついてきた。震える体を抱きしめると、柑橘系の香りがした。
かおりの唇は柔らかかった。どちらからキスしたのか分からない。気がついたらキスしていた。僕たちは夢中で唇を吸い合った。
さっきの事で、僕もかおりも異常な興奮状態だった。前戯もなしでカーペットの上に押し倒すと、僕はかおりの下だけ脱がせて一気に挿入する。
僕は最初から激しく突き上げた。かおりは喘ぎながら、助けを求めるようにしがみついてくる。
真っ暗な部屋の中で、荒い息遣いと喘ぎ声だけが聞こえていた。
かおりの喘ぎ声が大きくなってきた。背中に回した手に力が入る。
セックスは久しぶりだったから、僕はすぐに気持ち良くなってきた。
「もう出ちゃうよ」
「今日は大丈夫、そのままでいいよ!」
かおりがそう言って足を絡める。僕はまだかすかに震える彼女の中に、勢いよく射精して果てた。
男たちの正体は今も分からない。
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