久しぶりに外に出た。風と日光が気持ちいい。
元カノの祐未に裏切られ、大喧嘩の末に別れたのは数年前だった。祐未の浮気を知ったときは怒りで震えるほどだったが、別れてしまうとどこか寂しかった。日が経つにつれ、嫌な思い出は薄れて楽しかったことだけが鮮明によみがえってくる。
祐未とは結婚も考えていたから、やはり未練がないといえば嘘になる。
別れるとき、祐未の部屋の合鍵を返したが、実は内緒でもう1本合鍵を作っていた。
俺はその合鍵で祐未の部屋を覗いてみたい衝動にかられた。一度そう思ったらもう止められなかった。ただ部屋の中を見るだけだ。別に何もするつもりはない。
俺はOLの祐未が出勤している平日の昼間に彼女の部屋に行ってみることにした。
祐未は俺と別れたあと鍵を変えたかもしれない。用心深い女だからその可能性もあった。
あるいは、もう引越したかもしれない。それならやはり鍵が変わって入れないはずだ。だめならそれであきらめがつく。
要するに俺は自分の気持ちに決着をつけたかったのだ。男なら別れた女の生活が気になるのはわかると思う。俺はそれを自分の目で確かめようとしただけだった。
鍵もかけずに無用心だな
祐未の部屋には表札がなかった。
ドアにキーを差し込んで回すと、カチリと音がして開いた。祐未はまだ住んでいるようだ。ドキドキしながらドアノブを回す。キシキシという聞き慣れた音とともにドアが開いた。
俺はあたりを見まわさずにドアの中に飛び込んだ。見回すとかえって怪しいからだ。息が詰まる思いでドアを閉めると、懐かしい祐未の部屋の匂いがした。
高鳴る胸を押さえて奥へ進む。わずか数メートルの距離がすごく遠くに感じられた。
台所の流しに向かって後ろのガラス戸の奥がワンルームになっている。
ガラス戸は開いていた。部屋を覗くと、フローリングに敷いたカーペットの上に知らない女と赤ちゃんが寝ている。俺は全身の血液が逆流するのを感じた。
祐未はもうここにはいない。寝ている女に見つかれば俺は家宅侵入者になってしまう。早く引き返さなければ。
だがそのとき、気配に気づいた女が目を開けた。しまったと思ったときはもう遅かった。顔を見られてしまったし、なにより鍵を開けて入っている。警察に通報されれば、この部屋の合鍵を持つ人物はすぐに絞り込まれるだろう。
残る手段は女をレイプして口封じするという、短絡的な思考しか浮かばなかった。迷っている暇はない。そう思ったら俺の体は自動的に目的に向かって動いていた。
「誰!」
女が叫んだ。叫べば侵入者は逃げ出すと思ったのかもしれない。だが、逃げるどころか近寄ってくる侵入者を見て女の顔が引きつった。
「ひっ、ひっ」
女は過呼吸にでもなったように荒い息をして不審者を睨みつけた。
女を黙らせるには子供を人質にすればいい。俺はそばに寝ていた赤ちゃんを抱き上げた。驚いた赤ちゃんが火がついたように泣き叫ぶ。
「あっ、何するんですか!」
抑えた声だった。我が子の安全のためには侵入者を刺激しないほうがいい。女はそう考えたようだ。そしてそれは俺にとって好都合だった。
慣れない手つきで赤ん坊をあやしながら女に向かって言った。
「鍵もかけずに無用心だな」
合鍵で入ったのではないと思わせるための工作だった。
この女、どこかで会ったような
「返してください!赤ちゃんに何もしないで!」
女は腰が抜けたようにその場を動かず、手だけ伸ばして哀願した。
「服を脱げ」
「え?」
「脱げってんだよ!」
俺は赤ちゃんを頭の上に持ち上げた。言うことを聞かないとこの男は何をするかわからない。俺は女にそう思わせた。
「わっ、わかりました!」
女は我が子を守りたい一心で震えながら服を脱いだ。トレーナーの胸の上に、こぼれた涙がしみを作っている。女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
俺は女が脱いでいく様子を固唾を飲んで見ていた。
裸になったらどうなるかはわかっているはずだ。母親は我が子を守るためならここまでするのか。
俺は不思議な感動を覚えていた。
「よーし、脱いだらそこに寝ろ」
女は両手で股間を押さえて立っていた。裸の母親は素直に俺の言うことに従った。表情に絶望の色が浮かぶ。女は被害を最小限に抑えようとしていた。
自分はレイプされるが、自分も子供も無事でいられること。それが女にとって最小限の被害だった。
ズボンを脱いで上から覆い被さると、女は両手で顔を覆って泣いた。
赤ちゃんを人質に取った俺は偉大な権力者だ。陵辱が始まっても女は少しも抵抗しなかった。乳首を舐めると唇を噛んで耐えていた。乳房を揉むと、喘ぎとも嗚咽ともわからない声を漏らした。
薄めの恥毛をてのひらで撫でると、「うっ、うっ」と声を漏らす。ぴったりと合わさった太ももをこじ開けると、「うーっ」と悲痛なうめき声をあげた。
性器の中に指を入れてゆっくり出し入れする。女は震えていた。初めはあまり濡れていなかった膣もすぐにヌルヌルしてきた。
「ゴムは?」
女が黙っているので、
「じゃナマだな」
と言うと、あわてて床にある小さな手提げを指さした。
その中にコンドームがあったのでペニスにつけて挿入しようとすると、女は初めて「やだ、やっぱりやだ」と抵抗した。俺は無視して挿入する。奥までペニスが入ると、女は「あーっ」と絶望的な声を上げた。
ゆっくり腰を振っていると、女がその動きに合わせて「あっ、うっ」と声を漏らした。少しずつ感じ始めているのがわかる。
目を閉じて唇を噛み締めた顔を見ていると、俺はこの女にどこかで会ったような気がしてきた。そういえば、なんとなく祐未に似ている気がする。まさか…。
考えてみれば、祐未がいないのに鍵が開いたのも変だ。
これは厄介なことになった
俺は女に聞いてみた。
「名前は」
「さ、里美です」
女は驚いたように目を開け、布団に寝かせた赤ちゃんをちらっと見て答えた。赤ちゃんはいつの間にか泣き止んで、母親が大変な目に遭っていることもわからずに笑っている。
「苗字は」
「黒木です」
「結婚する前は」
「え?池中です」
女は怪訝そうな顔で答えた。俺の思ったとおりだ。
この女は祐未の姉だった。顔が似ているから、見たことがあると思ったのも当然だ。祐未に姉がいて子供がいるのも聞いて知っていた。
これは厄介なことになったと、俺は女を抱きながら思った。
しかしこの女はまだ何も気づいていない。もちろん俺が誰かもわからないはずだ。心配することはないのだ。俺は不安を打ち消すように強く腰を振った。
女の喘ぎ声が大きくなった。最初は嗚咽か喘ぎかわからなかったが、今ははっきりと喘ぎ声だとわかる。それでもレイプされて感じるのが嫌なようで、女は必死で口を押さえて耐えていた。
俺は気持ち良くないわけではなかったが、このレイプは快楽のためではなく口封じだから、あまり感じてはいなかった。それに、相手が祐未の姉だとわかるとなおさらだった。
姉がDVに遭っていると祐未が言っていたことも思い出していた。一度実家に逃げ帰ったが、夫に連れ戻されたとも言っていた。
もしかすると、実家に逃げても連れ戻されるから、妹の部屋に避難したのかもしれない。ここなら実家にいるより見つかりにくいからだ。
そう考えればすべての符号が一致する。祐未がいないのに鍵が変えてないのも、これなら納得できた。
しかし、それを確かめることはできなかった。女にそのことを聞くのは、自分が誰か教えるようなものだ。
もし俺の推理どおりであれば、この女はDVから逃れようとして今度はレイプに遭ったことになる。どこまでも不運な女だ。俺は急にこの女が気の毒になってきた。
目的は口封じだから、もうこれで十分だろう。俺は女の中で終わると、コンドームをつけたままズボンを履いた。レイプの物証を残さないためだ。俺は何も言わずに部屋を出た。
3ヶ月ほど経ってこの出来事を忘れかけた頃、祐未から電話があった。
「久しぶりね。元気だった?」
なつかしい祐未の声に心が躍る。軽くお互いの近況を話したあと、日曜日に会う約束をして電話を切った。会いたいと言ったのは祐未のほうだった。もちろん俺だって嫌なはずがない。
待ち合わせた駅前の喫茶店に行くと祐未はもう来ていた。しばらく見ないうちに髪が長くなり、少しふっくらしたように見える。祐未が体を動かすと、Eカップの胸がなまめかしく揺れた。
俺は今夜祐未を抱けるかもしれないと思っていた。祐未は浮気したことを後悔していると言っていたし、彼女が電話してきた理由は復縁以外に思い当たらなかったからだ。
俺の斜め前のテーブルに、帽子を深めに被り、サングラスにマスクをした女が座っていた。芸能人でもあるまいし、妙な女だ。
「お待たせ」
俺が席に着くと、強張った表情の祐未は、落ち着かない様子でマスクの女を見た。
マスクの女が祐未に2度大きく頷く。祐未はそれを見てサッと右手を上げた。それを合図に奥のテーブルから男が2人駆け寄ってきた。
出口付近にいた屈強な男が立ちあがり、ドアを背にして仁王立ちになると、2人のうち年配の男が背広の胸ポケットから何かを取り出して見せた。警察手帳だった。
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