
世間の人達が、会社、学校、身内、友達に書類や食品、プレゼントや日常品などを送る為に利用する郵便局で働き、それが終わると冬は寒く、夏は暑い佐川急便でアパレル類の仕分けをし、全国発送の仕事という1日中肉体労働の日々。
掛け持ちのため、丸1日の休みは少ない。
その人の人生のかかった高校や大学の入試願書、それぞれの想いや気持ちを込めて送られてくるゆうパック、結婚式のドレス、就活や仕事で着るスーツ類を間違わずに仕分けし、大切なお客様へ丁寧な扱いで送らねばならず、責任は重く、ストレスも溜まりやすい。
俺は時間がある時、気晴らしに好きなパチンコをするのだが、最近は楽しめなくなってしまい、何となく気分が憂鬱になってしまう。
嫁を亡くし、独りで過ごすことに途方に暮れて始めたパチンコ通いは、かれこれ15年が過ぎた。
パチンコが楽しめなくなった。
「おい、お前さぁ何をしたら気が晴れるんや?」
もう1人の俺が聞いてくる。
今の俺がこう答える。
「何か癒しの空間が欲しいなぁ」
心の俺「癒しの空間って?」
俺「う~んそうだなぁ。確実に女の子に会えるガールズバーかキャバクラかセクキャバへ久々に飲みに行くパターンかな。…待てよ?」
そう言えば、最近『レンタル彼女』という言葉を聞いたことがある。どんなサービスなのか、ネットで検索してみることにした。
フィーリングが合ったらそれでいい
携帯でezwebに接続し、「レンタル彼女」と入力して検索ボタンをクリック。
『レンタル彼女は、あなたのご都合のいい時間に、あなたがご指名した女性と恋人代行としてデートをして貰うサービスです』
(うわぁっ!なんかめっちゃおもろそうやんか!)
(これ東京の方やな?大阪ないか?よし検索や!)
「レンタル彼女 大阪」で検索すると…
(あっ!あるやんけ!よしここの会社詳しく見よか?まず料金システムから……)
指名料金は1時間5,000円。 デートの受付は2時間からで、キャストの往復分の交通費とデートの諸費用は客が負担することになっている。
交通費の目安はキャストによるのだろうか?
キャストは…なかなか質のいい娘が居る。顔の一部を隠している娘は、プライバシー保護のためだろう。
大体どの娘も交通費は1,000円代だった。
と言うことは、2時間10,000円、往復分の交通費1,000円代、後は諸費用負担。それなら思っていたより高くはない。
(行ける!行ける!よし決めた!さっそく女の子選ばんとなぁ)
ひと通り見ると……俺の中では2番目か6番目の娘が好みだった。
(どっちにしよかな?ちょっとプロフィール見てみよっかぁ)
まずは2番目の娘。
名前:蘭
年齢:23歳
身長:158cm
血液型:O型
(若い!俺といくつ差あるねん)
いや、年の差は関係ない。
フィーリングが合ったらそれでいい(笑)
好きな物や趣味を見ると……家にダックス(犬)を六匹も飼っているらしい。
世話がメチャクチャ大変そうだ。
ダックス攻撃にやられてしまい、俺はこの娘に決めた。
色々と話してみたい。
早速、デートの予約を会社へメールで申し込む。
名前、年齢、携帯アドレスを記入後、
待ち合わせの時間と場所:19時○○駅改札口
デートの内容と時間:居酒屋××で食事、2時間でお願いします。
とメールした。
すると、約30分後に蘭ちゃんから返信メールが届いた。
(キター!)
多少のお金は必要だが、誠の彼女が出来たとしても、交際費がかかるのは同じだと俺は思う。
たとえレンタル彼女でも、会ってしまえば男と女には変わりは無い。
お互い何度も会っているうちに好きになり、疑似恋愛から誠の恋愛へ発展するかもしれない!
俺がこの娘をどれだけ楽しませることが出来るか?どれだけリードすることが出来るか?男としてさ!
この娘と会って楽しく過ごせたなら、それを教材にして男を磨く努力をしようかと本気で考えている。外見も中身も。
人は、誰かに支えられ、何か刺激を受けないと変わることが出来ないんじゃないか、そう思う。
独りでは、自分を変えることなんて出来るだろうか?
15年間、女の子と2人っきりで会ったことは無い
15年前、俺がミナミに飲みに行った時に嫁と出会った。
俺は客で嫁はホステスだったが、当時の彼女はクレジットカードの借金返済のため、昼はエステサロンを掛け持ちしていた。
「お前の借金は俺も協力して助けたるから結婚せぇへんか?」
そうプロポーズしたが、彼女の親父さんが認めてくれなかった。
プロポーズして2ヶ月くらい経った頃、彼女の親父さんが条件をクリアすれば結婚を認めると言った。
その条件はこうだ。
「娘の借金返済終わるまでは結婚式するな!娘のことが本気で好きなら明日から死にもの狂いで働け!」
朝から夜遅くまで働いて、帰れない時は会社に寝泊まりすることもあった。
入籍して3年が過ぎ、嫁の借金返済が終わって生活も落ち着いた頃のある日の事。
得意先の客と飲みに行って潰れてしまい、帰れなくなった俺は嫁に迎えに来てもらった。が、その帰りに事故に遭った。
嫁は即死、俺は記憶喪失になり、「亡くなった」と言われても本当に分からなかった。
自分が誰なのかも分からない、親も分からない状態。
記憶が戻った時は、本当にショックだった。あの時酔い潰れさえしなかったら、嫁は死なずに済んだのに…取り返しのつかないことをしてしまった。自分を責め、嫁の両親に責められ、トラブルも色々あった。
この事がきっかけで、半年に1回は嫁の実家や墓へ行って供養をしに行っている。
亡くなって10年間は、俺の心の中の嫁の存在が強すぎて、他の娘を好きになったり、付き合うことは出来なかった。嫁は親とあまり仲が良くなかったから、どこかで独りで生きてるかもしれないと思い込み、探していた。恥ずかしながら、事故以来、女の子と2人っきりで会ったことは無い。
でも、このレンタル彼女には新鮮さを感じる。
キャストの移動可能範囲ならどこでも待ち合わせでき、その場所で時間の許せる範囲で遊べるんだから、端から見ればカップルだ。
何も高級店や洒落た場所にしようと見栄を張ることは無い。
相手の娘もそんなことを求めていない。コストのかからないデートプランを考えて、お互い充実した時間になったらそれでいいと思う。
指名料金と交通費を負担するのは仕方がないけれど、客は1人で女の子を2名以上指名も出来る。誰かが幹事になって会費を集め、グループで飲み会をやれないこともない。
ただし、個室への誘導は女の子の安全上禁止、自宅、ドライブ、ホテルなども駄目、カラオケルームは2回目以降ならOKらしい。
給料が入ってリッチな気分だし、六匹のダックスを飼っている娘にあと1週間で会える。今週は仕事のやる気も満々だ。
俺の中では当たりの娘だ
前日、こんなメールが送られてきた。
それになんだか楽しそう♪
明日19時に○○ですね?(*^o^*)
楽しみにしてます♪
これは「明日大丈夫ですか?」という予約確認のメールだと思うが、「楽しみにしてます」と言われてテンションが上がった。
この日は仕事が終わってから理容院に行って散髪した。翌日も仕事だったが、ヒゲを剃って風呂に入り、綺麗さっぱりになって出勤した。
蘭ちゃんとはデートの予約を取れた時からメールのやり取りをしていて、母の誕生日が近いということを話していた。
休憩中、蘭ちゃんに折り返しメールを送った。
えっ?楽しい?くだらんボケばっかするから相手するん疲れるんやけどおもろいとこある(^w^)
あっ今日は19時ってことでよろしく!
楽しい時間になるといいね?♪
仕事が終わって携帯を見ると、蘭ちゃんから折り返しメールがあった。
約1時間後に初めて会える。ドキドキワクワク!
待ち合わせ場所に着くと、蘭ちゃんからメールが。
あと黒髪のロングに眼鏡かけてますが、どんな服装してますか?♪
サイトに載っていた写真とイメージが違うから、『あれっ?』と思った(笑)
その5分後、蘭ちゃんらしい娘が俺に近づいて来て、お互い笑顔でご対面。
キャスト紹介の写真と全然雰囲気が違っていた(地味な感じだった)から、一瞬選び間違えたと思ったが、よ~く見ると意外と可愛い顔をしていて、足が細く、体の線も綺麗だった。
ただ見た目が地味だっただけのこと、俺の中では当たりの娘だ!
俺の家から近い最寄り駅で居酒屋や飲食店が多く、お互い笑顔で楽しくってことで居酒屋『笑笑』へGO!
席に着いて、早速2時間分の指名料金10,000円と交通費1,000円を渡そうと思ったが、万札しか無かったため、会計の時に崩そうと思い「1000円後でいいかな?」と言ったら、
「いいですよ~(笑)」
笑顔で対応してくれて気持ち良かった。
ありがとう! 楽しかった!
2人揃ってビールを頼み、俺が「初めての出会いに乾杯」と言ってお互いグラスをカシャン!
仕事が終わった後だったから、この一口が美味かった。
蘭ちゃんは鳥取生まれ、6歳か7歳の頃に○○で暮らし始めたらしく、十代の時にキャバ嬢をやって、今は本業としてカジノバーで働いているとのこと。
蘭ちゃんは黒渕の眼鏡をかけており、仕事にもプライベートにも眼鏡は欠かせないそうだ。
その日の気分で明るい色の服を着たり、地味な色の服を着たりするらしいが、この日はたまたま地味な色の服を着てすっぴん、さらに黒渕の眼鏡……この娘にとってはラフな服装らしい(笑)
「私、眼鏡取った方がいいってよく言われるんですけど眼鏡の方が楽なんです(笑)」
「コンタクトって寝る前に外さなあかんし、マメに洗わなあかんやらで面倒くさそうだもんなぁ(笑)」
「えぇ、そうなんですよ(笑)♪眼鏡取った私見ます?」
「うん、見たい!見たい!(笑)♪」
眼鏡を取った蘭ちゃんはやっぱり可愛い。髪を束ねてポニーテールにしたら、全然雰囲気が変わっていい感じだった。
蘭ちゃんは漫画やアニメに詳しく、オタクっぽいところがあるけれど、話を聞いていると面白かったし、ホントに好きそうな表情で話すから気持ちが伝わった。
音楽は80年代~90年代に流行った歌手や唄が好きらしく、よくカラオケで歌うとのこと。もちろんアニソンも(笑)
ダックスを六匹飼っている話を聞くと、散歩は一匹ずつ、もしくは三匹で散歩するそうだ。
「最近その中の一匹が顔腫れてるから、病院行ったんですよ。そしたら歯槽膿漏って聞いて犬もなるんだってビックリ!(笑)元々自分から歯磨きしないじゃないですか?(笑)」
「あ~言われてみたら犬が自分で歯磨きしてたらおかしいよな(笑)」
他にも色々と話したが、結局3時間くらい蘭ちゃんと過ごし、指名料と交通費、飲食代の合計が21,000円。それほど高くならなかったし楽しかった!
帰り際に蘭ちゃんはタバコを買ったけれど、俺が吸わないからと気を使ってくれて1本も吸わなかった。優しい娘だった!
それにそこそこ酒も強い。ビール、ワイン、カクテルとほぼ何でも飲める(笑)
店を出てからコンビニまで、待ち合わせた駅への移動中は蘭ちゃんと手を繋ぎ、それぞれの家路へと別れた。
俺が家に着く前、蘭ちゃんからメールがあった。
心が温まる。
本当に幸せな3時間だった。
初めて体験したレンタル彼女は、空っぽだった俺の心を埋めてくれた。
高料金ゆえ、月に何度も会うことは出来ない。
が、蘭ちゃんと会うために仕事にやる気が湧き、何の目的も無かった人生に張り合いが出来た。
蘭ちゃんとはまた会う予定だ。
今日もまた、俺は“彼女”と会うために仕事へ向かう。
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