あれは僕が今の会社に入社したての頃。
ある土曜日の夜、僕は職場の親睦会という名の飲み会に参加していた。
飲み会の場にはビール、汗、タコワサの匂いが充満し、酔った勢いで勝手に帰る人も現れるほどで、その光景はまさにカオス。
僕が飲むのは柑橘系のカボスサワー、最高だ。
そろそろ終電の時間という頃、1人の先輩が僕にこう訊いた。
「おっぱい、好きか?」
世の中には非常に多くの言葉が存在しているが、これほど余分なものを削ぎ落としたシンプルな言葉を、僕は未だかつて聞いたことがない!
『なにも足さない。なにも引かない。』
シングルモルト山崎を彷彿とさせる質問をしたのは、同じ職場のミヤギさん。
ミヤギさんとはそれまでに仕事上の絡みはほとんどなく、職場で会ったときなどに少し挨拶をする程度だったのだが、元々無口なミヤギさんはその挨拶にも「オゥ」とか「アァ」とか適当に応えるだけで、それ以外の会話らしい会話は皆無。
そんなミヤギさんの口から放たれたのが、先ほどの質問だったのだ。
それに対して僕ができることと言えば、嘘偽りない正直な気持ちを答えるのみ。
「大好きです」
僕の本当の気持ちを聞いたミヤギさんは、それでも表情を崩すことなく煙草を1本取り出し、その先に火を点けながらこう言った。
「じゃあ、おっパブ、行くか」
突然やってきた魅惑の花園への片道切符。
「行きます!」
答えるまでの時間はおよそ0.8秒。
欲望に忠実な僕は、即座におっパブ行きのチケットを手に取った。
こうして僕はミヤギさんに連れられて、魅惑のおっパブへ行くことになった。
もうこれ以上の生きる喜びなんか要らない
明らかに他とは異なる盛り上がりを見せる店舗群。
10分ほど待たされたのち、僕たちは店内へ…!
薄暗い店内、その一画のソファへと通され、ソワソワしながら腰を下ろして待っていると、周囲のソファからは楽しげな会話が聞こえてきた。
誘惑に耐え切れずに振り向くと、そこには…
『おっぱいがいっぱい』作詞:冬杜花代子 作曲:三木たかし
僕「ミ、ミヤギさん、緊張します…!」
ミヤ「えぇやろ、えぇやろ?」
もうミヤギさんのキャラすら上手く把握できなかった。
僕の中のミヤギさんは、そんな人じゃない!
そもそもあんた、関西弁しゃべるんか。
そして緊張もピークに達した頃、僕たちのテーブルにもとうとう女の子たちが。
しかもどいつもこいつも可愛くて、どいつもこいつもキャミを着て、どいつもこいつもみな肩紐に手をかけて…。
僕とミヤギさんの間に座った女の子は、どうやらミヤギさんお気に入りらしく、彼と楽しそうに話をしている。
僕はその様子をそれとなく眺めていたのだが、どうしてもおっぱいばかりに目が行ってしまう。
チラッチラ見ちゃう。
と言うよりはむしろ出してる方が悪いとガン見。
いわゆる出る杭は打たれる、出る乳は見られるという格言だ。
すると気を利かせてくれたのか、ミヤギさんがこんなことを言ってきた。
ミヤギ「この子Hカップやぞ、触っとけ!」
ミヤギさんには色々訊きたいことがあるが、まずはHって何番目?アルファベットで何番目!?
右のおっぱいもHカップ、左のおっぱいもHカップ、両方合わせてH2!
甲子園に行きたいよあだちさーん!
しかも触っていいってどういうこと?
動物園では「動物には絶対触らないでください」って言われるけど、いいのかここは!?
博物館では「展示物には絶対触らないでください」って言われるけど、いいのかここは!?
「注射の後はよく揉んでください」って言われるけど、何言ってるんだ僕は!?
ミヤギ「ほれ、ほれ!」
僕「じゃあ、遠慮なく…」
『ピトッ』
あ、思ったよりも冷たくて、張りがあってそれでいてセンシティブで…。
もうこれ以上の生きる喜びなんか要らない。
職場でもそれくらい笑ってくれたら仕事やりやすかったのにな
そうこうしているうちに、店内の照明が妖しく輝き始めた。
店員「それでは、ハッスルタイムのスタートでぇす!」
いかつい男性店員の掛け声とともに店内に流れる、恋のマイアヒ。
それと共に総立ちになる店内の人々。
『マイアヒー♪マイアフー♪マイアハー♪ナンタラッラー♪』
(今更マイアヒって…)
店員「もんでーもんでーもんじゃってー」
何だそのやる気のない掛け声は。
母さんが見たら泣く、間違いなく泣くさめざめと。
ところが僕の姿も母さん的には泣けてくるはず、ソファの上に立って女の子の乳を揉むという滑稽極まりない姿だからだ。
もちろん、股間の方も立っているわけだから、まさに独り二人三脚!
何言ってるのか自分でも意味が分からん。
しかも女の子の向こう側には、ミヤギさんがこちらを向いて立っているというサンドイッチ状態。
(これは相当気まずい!)
こっそりミヤギさんの顔を見てみると笑ってた、不思議だね。
しかもこれまでに見たことのないような笑顔で。
ミヤギさん、職場でもそれくらい笑ってくれたら仕事やりやすかったのにな。
ミヤギ「たーのしいなぁ、たーのしいだろ!」
僕「はい、楽しいっす!」
ミヤギ「アハハ、アハハハハ…!」
店員「ハイハイハイハイハイハイハーイ!」
夢のような45分は瞬く間に過ぎ、それ相応の対価(9,000円)を支払った僕たちは店外へ。
ミヤギ「楽しかったやろ!」
僕「はい、楽しかったです!」
ミヤギ「また来たいやろ!」
僕「はい、また来たいです!」
ミヤギ「じゃあ入るぞ!」
僕「今から!?」
まさかの再入場。
店へ舞い戻る僕とミヤギさん。
こうして僕たちは都合3回のハッスルタイムを満喫したのだった。
その夜はミヤギさんの部屋にお邪魔して、次の日の朝を迎えた。
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