4ヶ月ぶりの書籍レビューは、僕がファンであるルポライター「鈴木 大介」さんの一冊。
いつも通りAmazonで注文し、3日前に商品が届きました。
記事内でこのように囲まれた文章は引用です。
概要
今回ご紹介するのは、サバイバル生活を送る家出少女たちを追ったルポ。
第1刷発行は2010年10月21日、およそ3年前の本です。
奔放な10代少女の逸脱ばかりがクローズアップされるテレビの「プチ家出」報道だが、実はその陰に親からの虐待や貧困、施設からの脱走など様々な背景を抱えて路頭に迷う「家を棄てた」少女たちが存在する。彼女たちの多くが食べるため、寝床を確保するため、援交=売春を強いられる。下心を秘めた「泊め男」や違法売春組織に利用され、社会の生ゴミ扱いされ、それでも力強く生き抜く少女たちの姿を描いた衝撃作。
【本書裏表紙より】
表紙に写る制服姿の少女と猫が哀愁深い。
早速読んでみると…ただただ衝撃の連続。
読み進める度に続きが気になり、ものの4時間で読破。
読み終えた後は、何とも居たたまれない気持ちになりました。
ピックアップ
保護責任者遺棄
実家から飛び出してきて、三年。この街で風俗嬢の住むアパートに同居しているという彼女の名前は、夏子といった。(中略)
「棄ててきちゃったんだよね、子供……妊娠は二度目。前は中絶したけど。二回とも、援交相手の子供だから……」(中略)
陣痛を迎えたのは、クリスマスを控えた十二月末のことだ。ハルちゃんは仕事の休みを取り、もし危険だと感じたら即救急車を呼ぶと決め、二人で腹を据えた。どこかのドラマで見たように、タオルを口に噛み締めて、ユニットバスにお湯を用意する。だが、陣痛らしき陣痛を感じてからほんの四時間ほどで、あっけなく赤ちゃんは出てきた。
「ズルズルッて感じで。これなら産婦人科要らないじゃんってぐらい、あっという間だった。無茶苦茶健康そうな女の子でさ。ドラマみたいに、『おぎゃあああ!』って。ハルちゃんが臍の緒切ってくれて、抱っこさせてくれて、一瞬胸がドキッとしたよ」
とてつもない話である。アパートの一室で、十六歳の少女の子供を十八歳の少女が取り上げたのだ。いずれも事情あっての家出少女。そんな二人の逞しさに、僕は唖然とするより、むしろ感動すら覚えていた。
「おまえなんかいらねえ」
「ウチ、殺されると思って育ってきたから」
彼女は典型的な、被虐待児だった。少年院上がりで元ドヤンキーだったという母が遥馨を産んだのは、十九歳の時。実の父に会ったことはない。母親からの虐待は記憶のある限り昔から続いてきた、と遥馨は言う。
「(殴られた)痣、すごかったもん昔。『お前なんかいらねえから、お金ないんだから自殺しろ』って言われたり。すごいこと言うなって思うよね。すごい傷つくよ。包丁で向かってきたり。でっかい布切り鋏でチョキンってされたり。それが一番怖かったかな。(中略)」
優しくされた記憶はない。一緒にどこかへ行った記憶もない。食事が出てこない時期も長かった。
「親が寝た後に牛乳とかで生き残った。コンビニ弁当すらなかったからね。自分で食べろって。だから、あとは普通にご飯とふりかけとか。でも妹は普通に可愛がられてたし、食事も食べてた。虐待はウチだけ。うん……よく育ったね。だから身長伸びなかったのかもしれない。一四二・五で身長止まっちゃった。ほんとさ、なんで産んだの?って思うけど」
カラダでしか返せない
二〇〇四年七月末、記録的猛暑の続く中、僕は一人の泊め男と会った。(中略)
気が弱そうだが、そこはかとなく清潔感が漂うこの男が、ネット上でのハンドルネーム「坂ちゃん」を名乗る泊め男だった。(中略)
ヒロコは最初は影があったが、「明るい子だったよ」と遠い目をして坂ちゃんは言う。バイトをすると言ってネット上で仕事先を探し、結局は援交相手を探してきてしまうヒロコ。何度も止めたが、無力感が残るばかりだったと、肩を落とす坂ちゃんだ。(中略)
「ヒロコはね、ちょっと思春期の些細な反抗心から家出して、それでレイプされて、根本的になにかが変化してしまって。可哀想だったな。一ヵ月ぐらいウチにいて、ずっと親に連絡しなさいって言ってはいたんだけどね。(中略)あと、どんな教育を受けてきたのか、ヒロコは部屋に泊めてもらってることに対して、感謝の表現方法をセックス以外に知らなかった。自分のカラダに自虐的。要らないって言っても、何度もエッチしようって言ってくる」
こう語る坂ちゃんの顔は、本気でつらそうだった。
一人で食べた誕生日ケーキ
忘れられないのは、十六歳の誕生日の時のことだ。高校から帰り、静まり返った家の中。いつもより早く仕事から帰ってきた母親と、目が合った。
「なに?なに見てんのこいつ」
不機嫌な母親の目。なにを言いたかったのか、なにを求めていたのか。優紀子自身がわからなかった気持ちは、母親の拒絶の言葉で明らかになった。
「祝ってほしいの?誕生日。あたし、祝ってねえから」
またひとつ、優紀子の心にザックリと傷が入り、血が流れた。(中略)
それから何ヵ月も経たぬうち、一緒に暮らせば関係修復できるかもという希望はズタズタに引き裂かれた。母親から、ありえない宣言をされたのだ。(中略)
「母子手当て、あんたが十八歳になるまでは貰えるでしょ。だからそれ貰えなくなったら、あんた要らないから。あとさ、できれば二十歳になったら、生命保険入って死んでくれる?」(中略)
一緒に暮らしてきた子供時代みたいに、頑張ったら誉めてよ。そんな気持ちも、母親の言葉という汚物で貶められ、絶望のみが残った。
「お姉ちゃん、マトモに答えられません」
妹は、IQ(知能指数)が姉の倍以上あった。と言っても、妹が神童だったわけではない。姉・翔子のIQ値は50未満、妹の聡子は110以上。その姉妹との出会いもまた、家出少女取材を続けてきた僕にとって、新たな衝撃を受ける出来事だった。(中略)
そんな失踪事件から一ヵ月後、里親の元で暮らすようになった二人だったが、翔子が里親家庭でじっとしているのは二日が限界だった。たびたび逃げ出そうとし、無理に止めるとかつてのように絶叫が始まる。例によって、それを鎮められるのは妹の聡子だけだ。そんな生活が、いつまでも続くはずがなかった。姉を放っておけなかった聡子は、翔子の家出に付き合うようになった。結局、里親側が委託を辞退してきて、姉妹は帰る家を失ったのだった。
「で、どこで暮らしてたの?お母さんの家に戻ったの?」
「いや、それがまあ、ラブホとかですね」
聞いて驚いた。なんと姉妹はそれから実に一年、三百六十五日をラブホテルで暮らしたのだ。もちろん収入は、妹の聡子の援交。援交をして、その男に宿泊で取ってもらったホテルに寝る。それをなんと三百六十五日。聞いたこともない強烈な家出生活である。
オジサンもっと、ギュッとして
「なんか普通に出会い系で暇だから友達募集してて、そのときにオッサンから小遣いありで逢おうよって言われて」
何事も一回ぐらい挑戦してみる、これが優紀子の信条だ。だが、五万円の条件で待ち合わせ場所に現れた男は、見事に「お父さん世代」だった。小太りの買春男は、優紀子が想像していたよりもずっと優しかった。身の上を話すと、同情すらしてくれる。
「そうか、施設で育ったんだ。それだって、お金欲しいもんね」
「お金じゃないよ。施設の友達、援交やってる子多いけどさ。でもみんな、金以外の理由があるんだよ。だって施設で暮らしてたら、金は困んないよ。食うものはあるし、寝るところはあるもん。それは保障されてるし」
中三少女と、父親世代の男のセックス。しかも初めての援交に、緊張がないワケがない。堅くなる優紀子を、小太りのオジサンはギュッと抱きしめてくれた。セックスの経験は随分あったが、その「ギュッと」は優紀子が初めて知った感覚だった。
「処女じゃないよね」
「まさか(笑)。てゆうかさ、もっとギュッとしてよ、もっと」
ラブホテルから街中へ、オジサンと手を繋いで歩く。別れるのが、すこし惜しかった。
思いもしなかった、初援交の感想。優紀子が援交で感じたのは、「ぬくもり」だった。
レビュー
10代の子供たちは、精神状態が不安定だ。
それゆえ敵意や反抗心が剥き出しになり、家族と激しく対立する。
その結果、彼ら(彼女ら)は『居場所が無い』と感じ、より心を閉ざしていくケースが多い。
しかしながら、それは余りにも恵まれている。
ぬるま湯に浸かりながら家にしがみ付く一方で、家から脱出せざるを得ない少女たちがいる。
理不尽なイジメや虐待が原因で、リストカットや違法薬物などに依存しつつ、身体を売り、ボロボロになりながら路上を彷徨う。
援交相手の「見知らぬオジサン」に温もりを感じてしまうほど、彼女たちの心は乾いているのだ。
日本には、子供たちを救うセーフティーネットが足りない。
家出少女が出現する最大の要因も、安心して居続けられない家庭の増加にある。
本来、親は子供を護る存在であるべきだが、あろうことか、その親がいとも簡単に精神的、肉体的な暴力を振るってしまう。
俺は“虐待野郎”の脳構造に疑問を覚える。
そんな時、福祉関係者は問題を解決しようと必死に努める。
だがしかし、そこに立ちはだかるのは「親権」という大きな壁だ。
事件化でもしない限り、児童福祉が親権を剥奪できるケースは無いに等しい。
その上、児童福祉は福祉予算の中で、最も下に位置している。
必然的にギリギリの運営を強いられ、教員の質はお世辞にも良いとは言えない。
児童福祉がこんなにも穴だらけなのだから、子供たちがその穴から抜け出し、ストリートチルドレンと化す。
家出児童を減らすためには、著者が述べているように児童福祉の充実が必要だ。
本書を通じて伝えたいメッセージが、痛いほどストレートに伝わってくる。
児童に関わっている全ての人々に読んで欲しい一冊。
その小さな身体に、余りにも大きな闇を抱え、それでも逞しく、力強く生きる少女たちの姿を見よ。
目次
まえがき
第一章 たった一日の母子
第二章 ご飯とふりかけだけで育った
第三章 それでも家には帰れない
第四章 大阪のババ子
第五章 泊め男と仔鹿ちゃん
第六章 売春組織に救われて
第七章 オジサンもっと、ギュッとして
第八章 三百六十五日ラブホで暮らした
第九章 ジャンキー少女
第十章 お前、援交やってこい
終章 世界で一番幸せだった
あとがき
コメントする(承認制です)