読者投稿40代後半の女性
女が3人寄ると「姦しい(かしましい)」と書く…そうでなくとも、移動中の車内は賑やかだ。
「ねえねえ亜依知ってる?」
ふいに最近話すようになった女の子から聞かれた。
同じ『人妻の花園』に所属する亜依ちゃんのことだった。
「なんかさぁ、あの子臭くない?ちゃんとお風呂入ってんのかな」
(こういう陰口嫌だな…あまり乗りたくない)
「顔は知ってるけど、一度しか送迎で一緒になったことないから気づかなかったよ」
本当は待機所でも何度か話したことがあるのだけど。
「彼女専用の座布団あるんだよね…ねえクロちゃん」
「ああ、あれねぇ…」
何のことだかさっぱりわからない。
きょとんとしていると、クロちゃんが説明してくれた。
以前亜依ちゃんが乗車した時に、座布団がお漏らしをしたみたいに濡れていたのだという。
それ以来、クロちゃんは彼女用に座布団を用意しているそうだ。
クロちゃんの対応は仕方ないとして…私も何か言われてるのかな。
「そういえばスカートのお尻のところが、色が変わるくらい濡れてたこともあったよねぇ。絶対あれ性病持ってるよね」
「それってヤバいんじゃ…ちゃんと治療した方がいいのに」
その時は気づかなかったけれど、もしかすると亜依ちゃんは本番をしていたのかもしれない。
私にタクシー代を借りに来たこともあったから、病院代も捻出できなかったのだろう。
「なんかホストクラブにも行ってるらしいね、男にお金貢いでるんじゃない?」
居たたまれない気持ちになった。
ホスクラとは全く無縁な私だけど、他人のことをとやかく言うのはどうなんだろう…。
それからしばらくすると、亜依ちゃんの姿を見かけなくなった。
それとなくクロちゃんに聞くと辞めたらしい。何があったのかは知らないが、妙に気になった。
掛け持ちしてるの?
ゆったりとした時間が流れる。待機所に置かれた80円の缶ジュースを飲みながら、写メ日記に寄せられたメールにお返事をする。
ギニュー戦隊やサイコパスの他に、「いつか指名したい」とメールをして下さるお客さんがいるのも嬉しかった。お互いのアドレスはわからないしお金も要らない。気軽にやり取りできるツールだった。
お返事をしていると、ブースの電話が鳴った。
「千秋さんお仕事ですぅ」
「ありがとうございます」
今日はB系ドライバーさんの運転だ。
「千秋ですよろしくお願いします」
「千秋さんデリランドフリー40分、ホテルトマト203ね」
いつものことながら、緊張で顔が引きつる。部屋のドアの前に立った瞬間から、闘いは始まる。
気に入ってもらえるかもらえないか。それは一瞬で決まるのだ。
ホテルトマトの前に車が止まる。
「行ってきます!」
不安を抱えながら、私は203号室へと向かった。
いつまで経っても慣れない瞬間。深呼吸をしてドアを叩く。
「お待たせしましたデリランドですぅ」
「どうぞ」
(よかった。チェンジはなさそう)
でも油断はできない。デリヘルを呼んだことをバレるのが嫌で、取り急ぎ部屋に入れてからチェンジを通告するパターンもあるからだ。時間交渉をして料金を頂けるまでは安心できない。
無事交渉も成立、お金を頂いてプレイ開始。
歯磨きうがいをして頂き、シャワーへ。つつがなく進む。
ベッドに入った時、お客さんから驚くことを言われた。
「以前にも会ったね。掛け持ちしてるの?」
私は焦った。必死で記憶を辿った。ザ・デリソーで接客した、迷惑メールに困っていたお客さんだった。
「掛け持ちしてるの?」は想定外。同じ経営者とも言えず、仕方なく「掛け持ちなんですぅ」と答えるしかなかった。幸いそれ以上は追及してこない、いいお客さんだった。
本番も強要しないし、「30代が話しやすい」と言ってくれる。『指名してくれたらいいのになぁ』とこっそり思ってた。ザ・デリソーやデリランドの所属ではないから、そもそも私を指名できるのかはわからないけれど。
『また呼んでもらえたらいいのにな』とお別れした。
お店に戻り、スタッフのお兄さんに聞いた。
「違うお店で接客したお客さんに当たって、掛け持ちしてるのか聞かれたんですが、この場合どうすればいいでしょうか?」
スタッフは焦っていた。
本来、一度接客したお客さんには、再度フリーで付かないように電話番号で管理しているらしい。
今回はラブホの電話からかけてきたから分からなかったのだろう、という話になった。
指名はしないというあのお客さん。フリーで再会する夢は潰えた。
第11話暗雲立ち込める4日間
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