私は去年の9月までの約3年間、かなり大きな規模で運営している悪徳出会い系サイトのサクラとして働いていた。
辞める時には、新人アルバイトの面接や、業務に関する指導などを受け持つ立場になっていた。
結局は3年も続けたわけだが、やはり人を騙してお金を稼ぐ仕事は精神的にくるものがあり、私は退職することにしたのだ。
この記事は、悪徳出会い系サイトに蔓延るサクラの実態について、これから出会い系サイトを利用する男性に知って欲しいと思い執筆したもの。
少しでもお役に立てれば嬉しい。
サクラの真実
メールするだけで時給2,000円!?
ある日、IT系の専門学校で仲良くなった友人から、「メールするだけで時給2,000円のオイシイバイトがあるんだけど、やらない?」と誘われた。
それが悪徳出会い系サイトのサクラのアルバイトだったのだ。
特にPCスキルが必要なわけでもなく、画面に表示された相手に対してメールを返すだけで良いと言う。
出会い系サイトを利用する立場ならともかく、運営側に回るのは未知の恐怖を感じたが、友人が一緒であること、シフトの時間が自由なこと、そして何よりも高時給が私の背中を押し、2人で面接を受けることにした。
指定された場所に行ってみると、そこはごく普通の会社も入居しているビルの3階。
思い切ってドアをノックして入ると、カタカタとキーボードを打つ音が部屋中に響き渡っている。
悪徳出会い系サイトの事務所は私の持つイメージとかけ離れていた。
表通りに面した部屋には、窓から明かりが差し込んでいる。室内はとても明るく、窓際の観葉植物と真っ白な壁が、雰囲気を和らげていた。
訪問する前の緊張感が抜け落ち、同時に少し驚いてしまう。
入り口と業務スペースの間はパーテーションで仕切られているのだが、少し開いた隙間から覗いてみると、会議用の長テーブルにずらりとPCが並んでいて、その前には作業中の男性が並んで座っていた。
サクラって男なんだ
私たちの面接に応対してくれたのは、30代くらいの小太りな男性。
応接イスに案内されて挨拶を済ませると、いきなり「2人ともパソコンどのくらい使えるの?」と聞いてきた。
一応私たちは学校で日常的に使っているため、それなりのスキルは持っていた。メールはもちろん打てるし、パワポやエクセルも使える、ブラインドタッチも出来た。
最初はその男性を責任者か経営者だと思っていたのだが、実は私たちと同じアルバイトだったことを後に知る。
彼はアルバイトの中でも「チーフ」という役割を担っているらしく、一通りの業務内容や勤務時間、タイムカードの使い方などを説明してくれた。
勤務体系は、事務所に通って仕事をする方法と、自宅のPCを事務所のサーバーに繋ぐ方法の2通りがあるらしい。
「家だとダラダラしちゃって、あんまり稼げない人が多いよ」
チーフからそう教えられたので、私たちは事務所に通うことにした。
それにしても、PCの前に座っている人たちは男性ばかり。約70人ほどいただろうか。女性の姿はあったものの、5人程度しかいないように見えた。
私は思わず質問してみた。
私「あのー、ここのサイトって女性のお客さんが多いんですか?」
チーフ「いや、全部男だけど、なんで?」
私「男性がほとんどなので、メールの相手は女性なのかなと思いまして…」
チーフ「ああ、メールの相手は全部男だよ。その相手をするのもほとんど男だよ(笑)」
私「えー、そうなんですか!?でも、男性が男性とメールして面白いんですかね?」
チーフ「ハハハッ(笑)違うって、客の男は女とメールしてることになってるの」
私「え、どういうことですか?」
よくよく聞いてみると、悪徳出会い系サイトのサクラの90%は男性なのだそうだ。
サクラの業務内容
私たちは1週間の研修期間で適正を見られることになった。翌日からは授業が終わり次第、事務所に通うことにした。『研修期間で出来るだけ成果を上げよう』と思ったからだ。
アルバイトには特に専用の決まった場所は設けられていない。会議用の長テーブルに並んだPCの空いているイスなら、どこに座っても良いそうだ。
さっそくPCを見てみると、画面の上半分には、男性から送られて来たと思われるメールのタイトルが、時間順に並んでいる。
メールのタイトルをクリックして開くと、画面の下半分に、その男性と相手の女性の過去のやり取り、それぞれのプロフィールが表示された。
チーフからは「1時間に70通以上の返信が最低ノルマだから」と言われている。私自身はどんなキャラクターを演じれば良いのだろうか。画面を眺めながらしばらく考えていた。
画面上を見ても、並んでいるのはメールのタイトルだけ。しかも「こんにちは♪」「今週末空いてますか?」「ここだけの話ですけど…」など、参考になるような文面は何一つない。
考えても仕方がないので、私はチーフに質問した。
私「すみません、私はどういう女性になってメールすればいいですか?」
チーフ「どういう女性も全部自由。とにかく上から順番にメール返していって!」
この会社が運営しているサイトでは、“登録している”女性のキャラは何千とあったのだが、それぞれのアルバイトに専用のキャラが割り振られているわけではない。上から順にメールの内容に沿ったキャラになり切り、ただただ返事をし続けなければならないのだ。
秒単位の勝負
業務内容は理解したものの、その時私は『自分の決めたキャラで順番に返信していく』と思い込んでいた。しかし、ここで大変なことに気が付いてしまう。
上から順にメールを開いてみると、それぞれキャラがバラバラだったのだ。
例えば、1番目が「詩織」、男性Aとのメール数は4回、男性Bとのメール数は9回。2番目が「マミ」、まだメールを返信していない。3番目が「玲奈」、男性とのメール数は17回、といった具合だ。
つまり、1人の女性キャラに対して、初めてメールを送る男性もいれば、すでに何度もやり取りをしており、まさに“ハマっている”男性もいるわけだ。
こればかりは、メールを開いてみなければ状況を把握できない。1時間に70通以上の返信がノルマだから、猶予はメール1通あたり51秒、1分もかけられない。その間にこれまでの経緯を全て把握し、メールを返信しなければならないのだ。
画面の下半分には、前回やり取りしたメールの内容が映し出されている。それをパッと見て流れを掴み、男性と女性キャラのプロフィールを頭に入れながら返信する。
初めてのサクラ業務、1時間で返信できた数はわずか14通だった。
この仕事を2年ほど続けていると、それぞれのキャラが頭に入っていることもあり、1時間に100通以上の返信が出来るようになった。
メール内容も気楽に打てるようになり、「会いたい(´・ω・`)」「明日時間ある?(*´ω`*)」なんて顔文字まで使う有様だ。
つまり、悪徳出会い系サイトが利益を上げるためには、メール文の文字数ではなく、男性からの返信回数が重要なのだ。私が働いていた事務所のサイトでは、男性はメール送信に1通500円の料金が発生し、月2千万以上、年間で2億4千万以上を売り上げていたというから、開いた口が塞がらない。
出会い系サイトの種類
それにしても、悪徳出会い系サイトを利用している男性は、本当にお気の毒としか言いようがない。サクラのいない出会い系サイトを利用している男性は良いのだが、世の中にはサクラの存在すら知らない人々がまだまだ存在する。
まして、高額な料金を払ってメールをやり取りしている相手が、異性のサクラならまだしも、そうでない場合は利用者も浮かばれない。
ただし、出会い系サイトの中には、本当に一般の女性しかいない“優良出会い系サイト”も存在している。
以降は、出会い系サイトの種類について書いていこう。
利用する男性からすれば、無料か有料か、PC専用かモバイル専用か、などの違いしか感じられないだろう。だが運営側からすれば、全く意味合いが違ってくる。『どの料金体系が一番稼げるのか』を考えているからだ。
出会い系サイトには、以下の3種類がある。
①完全無料出会い系サイト
私がいた事務所では、この手のサイトは運営していなかったが、“出張”はよく行っていた。
まず他の完全無料出会い系サイトを調べて女性キャラを登録する。そこで男性を見つけては、自社のサイトへ引っ張ってくるのだ。私の事務所では、これを「引き抜き」と呼んでいた。
このような無料サイトは、サイト上に他社の広告を貼り、その広告収入によって運営している。ほとんどはPC専用のサイトが多く、力のあるサイトでなければ自サイトの宣伝も不可能なため、利用者はあまり多くない。
②無料もどき出会い系サイト
『完全無料』と謳っておきながら、登録は無料だが、メール送信やプロフィール閲覧には有料ポイントが必要なサイトである。
見せかけの無料サイトであり、フロントページには「男女共に完全無料!」などと書かれている。ところが、いざ女性にメールを送ったり、プロフィールを見ようとした場合は、ポイントを購入しなければならない。
どうしようか迷っている男性に対して、突然女性からメールが送られてくる。
今日何回も携帯チェックしちゃったけど…メール届いてないかな?( ´・ω・`)詩織だけどこのアドレスで間違いないよね?( ´・ω・`)今ヒマだから、どこか遊びに行きたいな♪あたしの写メ載せておいたから見てみてね(*>ω< *)
男性は登録したばかりで、まだ自分のプロフィールさえ記入していない。それでもなお、女性からお誘いメールが届くのだ。それもそのはず、アルバイトのサクラが時間順にただ送信しているだけなのだから。
男性がまだメールを送信していない場合は、業務用のPC画面には表示されない。メールを受信していないのだから当然だ。
上記のように登録したばかりの男性や、サービスポイント(ただの餌)を持っていながらメール交換をしていない状態の男性は、「休止会員」と呼ばれている。休止会員は専用のPCに表示されるようになっていて、そこに新たなサクラが続々と誘いをかけるのだ。
これも時間順に送信しているだけだから、登録してすぐにメールが届くというわけだ。
無料もどき出会い系サイトの場合、私の働いていた事務所で運営中のサイトは、100%サクラしかいなかった。しかも、同じ女性キャラを使って複数のサイトを運営していた。
つまり、サイト名やデザインは別のサイトであり、料金システムも違うのだが、登録している女性キャラは全サイトで共有しているのだ。入り口は別だが、中身は一緒というわけである。
運営会社にもよるが、基本的にサクラを利用して利益を上げようとする出会い系サイトは、一般の女性を入れたがらない。表向きには女性会員の登録ボタンが設置されているが、女性として手続きをしてみると、最終的には登録できないようになっている。たとえ登録できたとしても、男性からメールが届くことはない。ただ個人情報だけを取得されているのだ。
そして、一般女性の情報は、「サクラ」として利用されるのである。
私はとても不思議でならない。
「3年間もサクラやってたくせに偉そうに言うな!」
そう思われるだろうが、出会い系サイトでサクラを使用することは、れっきとした詐欺行為だ。
無料もどき出会い系サイトのように、一般女性の登録データを抜き取って2次利用する行為は、もしかすると個人情報保護法にも触れるのではないだろうか。さらに言えば、男性のメールアドレス、実はこれも再利用されている。
ほとんどの悪徳出会い系サイト会社は、複数のサイトを運営しているため、入手したアドレスを別サイトで転用する。これは自社サイトで保有しているアドレス、名簿業者から仕入れたアドレスの双方で行われている。
そして、男性ならご存知の通り、大量の迷惑メールを送りつけるのだ。送信元がバレないようにする方法もあるらしいが、詳しくは分からない。そして、迷惑メールの解除は出来ないようになっている。
あなたのメールアドレスが名簿業者から売られ、そこに迷惑メールが届いたとする。「ウザい」と言いながらも、メール内に記載されている悪徳出会い系業者のアドレスに、『解除希望』のメールを送信したとしよう。
するとどうなるか。本来なら悪徳出会い系業者はあなたのメールアドレスなど知らなかった。配信業者に依頼して無差別に送信したメールだからだ。ところが、あなたから『解除希望』のメールが届いたものだから、悪徳出会い系業者はまんまとアドレスの取得に成功してしまう。
これが無料出会い系サイトの真実だ。
③有料出会い系サイト
有料出会い系サイトの場合は、“優良サイト”と“悪徳サイト”の2つに分けられる。前者は男性誌だけではなく女性誌にも掲載されているため、よく目にする有名なサイトが多い。
ただし、中には「完全無料」と記載しているサイトもある。無料でサービスを提供しているのに、高額な広告宣伝費を使える理由はもちろん、サクラを雇って利益を上げているからだ。そのため、雑誌に広告を掲載している完全無料出会い系サイトは、最初から相手にしないほうが懸命である。
最後に
この記事では、私が3年間サクラとして働いていた経験を語り、出会い系サイトの種類を解説してきた。悪徳出会い系業者にとっては、いかに男性顧客を引き込むかが全てなのだ。
そのため、一般女性は運営の邪魔者でしかない。最近では女子中学生や女子高生による援助交際や、出会い系サイトを介した事件なども多く発生している。だが、メディアによって『出会い系サイトで出会った』と報道された結果、逆にサクラの需要が増加するという負のスパイラルに陥っている。
本来の出会い系サイトは、出会いのない男女を繋げてくれる素晴らしいサービスだ。
しかし、サクラや悪徳業者が出会い系業界を荒らしたことで、常に悪いイメージが付きまとうようになってしまった。
最後に、2014年現在の“出会える優良出会い系サイト”をお伝えしよう。
『ハッピーメール』『PCMAX』『YYC』『Jメール』『ワクワクメール』『イククル』『ASOBO』の7つである。
逆に言えば、上記の7サイト以外は全て、サクラ満開の詐欺サイトだということだ。
この記事を読んだあなたなら、二度とサクラに騙されたり、悪徳出会い系サイトに登録することはないだろう。
優良出会い系サイトで、思う存分素敵な出会いを楽しんで欲しい。
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