
読者投稿40代後半の女性
さっそく何件か電話をかけてみる。
大抵は年齢制限に引っかかり、門前払い。
当時の私は40代前半。
「若い子しか採ってないんですよ」の答えが多かった。
(やっぱり誰だって若い子抱きたいよね…)
暗澹たる気持ちになりながら、求人をひとつひとつ潰していく。
何件目だろう。
「まずはお話を聞きに来られませんか」とありがたい言葉を頂いた。
年齢は問題ないという。
ただひとつ、気になっていることがあった。
私は以前、初めての飲み屋さん勤務のストレスから1年で20kgも激太りしてしまい、安心して脱げる体型ではなくなっていた。
太っていることを話しても、断られることはなかった。
数日後に面接の約束を取り付け、電話を切った。
実はデリヘルの面接は初めてではない。
遡ること数年前、まだ細かった頃にデリヘルの面接を受け、いわゆる実地研修も受けた。
お風呂場での洗い方、フェラの仕方、そしてゴムなしの本番の仕方。
当時は本番ありが暗黙の了解だったらしい。
体験入店で2回ほど接客したが、あまりの仕事の少なさに私は本入店を諦めた。
『またあの頃のように実地研修があるんだろうな』と覚悟を決め、面接の日を迎えた。
夏の強い陽射しをパラソルで遮りながら、私は広島駅の南口を歩いていた。
お店まで送迎ドライバーさんが送ってくれるという。
徒歩ナビでも迷うほど方向音痴な私は、ありがたくその申し出を受けることにした。
教えてもらったナンバーの黒い軽のワゴン車を探す。
決して広いわけではない停車スペースなのに、緊張してナンバーを探す目が滑る。
隅の方に停まっていた車をどうにか探し、助手席のドアを開けようとすると「後ろに乗ってください」と言われた。
後ろに乗るのは…なんだか落ち着かない。
そわそわしながら、お店までの道を覚えようとしたけれど、裏道を駆使するドライバーさんには通用しなかった。
ほどなくして、車はあるビルの駐車場に停められた。
「こちらですよ」と誘導するドライバーさんに付いて行く。
重い鉄のドアを開け、6畳より少し狭い部屋に通された。
「そこのソファーで座って待っていてください」
緊張が高まる。電話が鳴る。
「はい、『人妻の花園』です」
(あぁ、もしかしたらここで働くのかもしれないのか…どうしよう。ほんとに私ここに来てよかったんだろうか)
暑さと緊張で汗が止まらない。メイクが崩れてしまいそうだ。
来るはずのオーナーが遅れるそうで、またしばらく待たされる。
ふと棚を見ると、たくさんのミニバッグが置かれていた。
その横にはコスプレ用の服がかけられていて、どれも可愛らしいものばかり。
『こんなの入らないよー!』と心の中で叫んでいた。
テレビには水戸黄門の再放送が映っていたので、それをぼんやり見ながらオーナーを待つ。
時折入ってくる女の子たちが細くて可愛くて眩しい。
場違いな所に来てしまったことを強く後悔した。
「おはようございます」
水戸黄門が佳境に入ってきた頃、少し恰幅の良い男性が入ってきた。
私も思わず「おはようございます!」と返す。
「遅くなりました…オーナーの緒方です。面接を始めましょう」
(遂に来た…。あの実地研修があるのか…でもなんかオープンな雰囲気の事務所だし、あるのかな?)
不安になりながら、差し出された紙に住所や名前、できるプレイとできないプレイなどを書いていた。
「結構できること多いですね」
「アナルプレイは最近してないんですけど、一応経験はあります…」
これが良かったのか、採用になった。
覚悟していた実地研修は無かったが、ファイルを渡されて熟読するように言われた。
そのファイルには、手コキの仕方が詳細かつリアルなイラスト付きで説明されていた。
恥ずかしがりつつも、持ち出しはできないので懸命にやり方を頭に叩き込んだ。
源氏名を決めるように言われた時、少し悩んだ。
前もって見ていたお店のサイトでは、みんな芸能人の名前を付けているのが特徴的だった。
なんだかそうしないといけないような気がして、源氏名は私が好きなポケットビスケッツの千秋から取って「千秋」にした。
ポケビでの頑張りを見せた、あの千秋のようになりたかった。
早速オーナーの了解を取って、100均でカードとカラーペンを買い、手作り名刺を作ることにした。
リピーターを作るためには、名前と顔を覚えてもらわなくてはいけない。
店名と源氏名をカラフルに書いて、私は明日の出勤に備えた。
第2話13番ブースが私のお城
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