俺がこの話を書こうと思ったのは、エロ話を書く為ではない。
安易に割り切りをしようと考えている方に、少しでも警鐘を鳴らしたいと思ったからだ。
以下、全て俺の実話を基に書いている。
割りでお願い出来るかな?
彼女との出会いは2013年4月30日、某有名出会い系サイトのアダルトコーナーを訪れた時から始まった。
俺はある女性に1通のメールを入れた。
割り(割り切り)でお願い出来るかな?
その相手が「りえ子(仮名)」だった。
いいですよ!条件は別●●から●●です。
待ち合わせ場所は?
●●市知ってます?
あぁ、知ってるよ!
●●市の横にセブンのコンビニがありますからそこで待ってます。時間は何時になりますか?
そうだねー、仕事終わらせて行くから、10時半(22時)くらいに着くよ。目印か車を教えられるかな?
赤い軽です。
10時半にセブンに着くと、俺は辺りを見回し、赤い車を目で探した。
(どんな人が乗ってるのかな)
不安と期待の気持ちが心臓付近を行き来しているのが分かった。
そして、店の一番奥の方に1台の赤いミラが停まっているのを捕らえた。
俺が恐る恐る車に近寄って行くと、中には20代後半か30代前半と思われる可愛い女子が乗っている。
いや、正直美人ではないが、目鼻立ちの整った子顔はグッドに近い。
薄暗い車の灯りと心の高鳴りが、俺の目にそう映したのかも知れないけれど。
でも少しガッカリした。俺の好みは30代後半から40代後半だから。
今は離婚してしまったが、娘を持っていた事もあるし、今まで付き合った人がほとんど年上だったから、精神的に女を感じさせなかったのかも知れない。
年下は高校時代に付き合った彼女以来で、扱い方が分からない。
そんな思いもあって、俺は目と目が合った瞬間に気恥ずかしさを感じながら「…メールの人?」と聞いた。
彼女は小さく「はい、りえ子です」と名乗った。
俺はりえ子を車に乗せると、彼女の緊張と俺自身の動揺を解きほぐすために、開口一番にこう言った。
「良かった、綺麗な人で!実は貴女の前に会った人はね、俺の車の後ろに乗れないくらいのビッグさんで、チョット出会い系に向かないかなと思うような人だったんだ。俺の車小パジェロだろ?後ろは前のシートを倒してしか乗れないし困ったんだよ」
「それでどうしたんですか?」
「うん、『せっかく会えたのにゴメンね。今電話があって身内に不幸があったから』って(不幸や法事が一番断りやすい)足代渡して丁重にお帰り願いましたよ。ホント乗せたら潰れそうだったと思うよ…車も、俺も」
「私も後ろに乗りましょうか?」
「貴女みたいな可愛い人は助手席に乗ってもらわないと。運転席のシートから俺がケツをつねられるから」
りえ子が笑みを浮かべたので、俺はホッとしてホテルへと車を走らせた。
そんな事書いてあるの?
りえ子と初めて会ったのは4月30日、それから5月8日、6月に2回、全てが割り切りだったが、継続的に会っていた。
逢引きは22時から12時までの2時間。
会っては蛇のように絡み合い、弾ける若さを感じるセックス。
腹を抱えて笑うような会話を楽しんでは、心と体のリフレッシュをしていた。
でも、会う度に気になっていた事が幾つかあった。6月後半の4回目の割り切りの時、俺は疑問をぶつけた。
「2つ3つ聞いていいか?」
「何を?」
「なんでホテルに入った時と出た時に携帯が鳴るの?しかも返信するでしょ」
最初は気に留めず、他の客からの誘いかと思っていたが、着信音が異常なほど鳴り続ける。凄く気になっていた。
りえ子はしばらく悲しそうな顔をして下を向いていた。何かあるんだと思った。
「言いたくなければいいよ。でももう1ついいかな」
「…いいよ」
「アンタ、なんで笑った後とか別れ際に急に寂しそうな顔するの?彼氏いるんだろ?」
実際、会話が盛り上がった時、笑っていたかと思うと急に寂しい笑顔をする。
そして、帰りに車を降りる時の物凄く寂しそうな顔…たまらなく後を引いてしまう。
「旦那もいるし、子供もいるよ。別れた方の旦那の実家にだけど。今の人は、○○(俺)さんより少し歳いった人」
あっけらかんと答えた後、また寂しそうな顔をしたので少し話題を変える事にした。
「ところで、りえ子たちは稼ぐよね。1日3人だとして、月にしたら60万くらい稼ぐだろ。生活派手になるでしょ?俺もりえ子の旦那と入れ替わりたいくらいだよ」
そう冗談を言ってみる。
「稼がないよ。1日誰とも会えない日も有るし、会っても『アンタ前に会った事あるから駄目』だとか、中にはホテルに入ってしばらくするとビデオカメラ出す奴もいるから逃げる事だってあるよ!」
「だから、旦那は造船所で溶接工してる。りえ子は旦那に食べさせて貰ってるもん」
「そんな客少ないんだ。アンタの募集コメちょっと変えた方がいいんじゃない?」
「なんて書いてあるの?」
「『H大好き、エロ下着履いてます!会える人連絡下さい』って書いてたじゃん。でも履いてくる下着はハローキティなんだから、笑うよな」
「そんな事書いてあるの?」
そこからだ、俺がおかしいと思い始めたのは…。
私はね、待ち合わせの場所に行くだけだよ
「あの書き込みりえ子が書いてたんじゃないのか?」
りえ子は少し間を置いてコクンと頷いた。
「お前6月半ばに俺にメール入れただろ。『今日は会えませんか?』って」
「入れてないよ」
「あの時『今日は持ち合わせが無いんだ、そのうちな』って返信したら、『なんだ文無しか』って返ってきたからおかしいと思ってた。今度確かめてぶん殴ってやろうと思ってたんだ」
笑いながらそう言うと、
「そんなひどい事書いてあったの?うちは絶対そんなこと書かないよ、○○さんには」
と俺の方を向いて弱々しく笑いながら答えた。
「それじゃー誰がメール打ってたんだ。旦那か?」
りえ子は黙り込んで首を横に振った。
そんな話をしながら服を着ていると、またいつものようにりえ子の携帯の着信音がかん高く鳴った。
「いい加減にしてくれよな。次のお客さんか?」
少し怒った素振りで聞くと、りえ子はメールの送信を止めて、急にボロボロと涙をこぼし始めた。
(うわぁ…泣かしちゃった)
「ゴメンゴメン、怒ってないから。こんなとこで女の子泣かしたらヤバイでしょ。ホテルの従業員に見られたら強姦してるって思われちゃうよ。俺困るー」
そう言ってなんとかりえ子を笑わせて、いつものセブンまで送る。
その途中にも携帯の着信音が鳴った。
「もう怒らないから返信したら?」
「今日は○○さんを見送るまでメールしない」
セブンに着いて別れようとしたら、りえ子がいつものようにお別れのキスをねだってきた。
「もう会わない。だからキスしないよ、後を引くから」
そう言って愛車の小パジェロのエンジンを掛けたが、りえ子は一向に降りようとしなかった。
それどころか、大粒の涙を溜めてこう言った。
「ゴメンね、○○さん。事情を話すから後1時間くらい待ってて。それで仕事終わるだろうから」
時計を見ると1時を回っている。かなり眠くなってきたが、りえ子の事情も知りたい。俺は好奇心に負けて「いいよ」と答えてしまった。
それから1時間が過ぎたろうか。りえ子の乗った赤いミラが近付いてきて、俺の横に止まった。
中では化粧を落としたりえ子が笑っている。彼女はセブンに入ってお茶を2本買い、俺の車に乗り込んできた。
「ねー○○さん轟きの滝に行こう」
セブンの駐車場では誰に見られるか分からない。それに5分もあれば着く距離だ。俺はすぐに車を出した。
車の中で、俺は気になっていた事を聞いてみた。
「メールの相手は誰?」
「事務所の人」
「じゃー俺は誰にメール送ってたの?」
「事務所の人」
「りえ子のサイトの書き込みも事務所の人か」
「うん」
「あの着信はなんなんだよ」
「ホテルに入った時間の確認と、時間を過ぎた後の呼び出しコール。今日は30分も遅くなって連絡しなかったから、『ヤキ入れるぞ』って言われた」
「私はね、国立病院の駐車場にいて、事務所からメールがあったら待ち合わせの場所に行くだけだよ」
「旦那はお前がそういう所から行かされてるの、知ってるの?」
「知ってるよ」
「何をやってるのかも?」
「うん」
(…旦那も旦那か)
そう思ったが、更に驚く事になるのはこれからだった…。
ねーさんは事務所の男達に輪姦された
知らなければ良かったカラクリ、出会い系サイトの割り切りのあこぎな世界。
俺がメールをしていた相手はりえ子ではなく、“事務所”の男達だった。
だからホテルに入る時、出る時に事務所が確認していたんだ。
そしてりえ子が貰う金額を聞いて驚いた。“売り上げ”のたった25%。しかも日払いではなく月末払いで、手数料も差し引かれ、実質25%にもならないと言う。
最終的に振り込まれるのは月4万から5万程度。
俺は呆れて言った。
「だったら辞めればいい。(援デリ)業者でもそんなに酷くないぞ」
「借金が事務所にあるんだよ」
「金借りたのか」
「サイトで募集してたらあっちから接触してきた。『トラブルがあったらウチが護ってやるから』って。働き始めてからお客さんと直接アドレス交換して、遊びに行ったのがバレたの。そんな事が4回あって、社長が『お前累犯だから200万揃えて持ってきたら辞めていいぞ』って言うの」
「最初はひどく怒られたけど、注意されるだけだったの。2回目は50万、3回目は100万、4回目は累犯で200万だって…」
「その事、旦那知ってるの?」
「知ってるよ。あんまり稼ぎが無いから旦那が事務所に電話したら、『りえ子が客と直接遊びに行ったから、他の女に見せしめだ』って言われたって」
つまりこうだ。
りえ子が出会い系サイトで個人の割り切りをしていたら、暴力団絡みの“事務所の男達”が接触してきた。りえ子はそこで働くことにしたが、おそらくは禁止されているであろう「事務所を介さない割り切り」をしてしまった。
怒った事務所の男達はりえ子に200万の罰金を課した。今は罰金を払うために働かされている。
そして、旦那はその全てを知っている。…ゲス野郎だ。
「なんで客と遊びに行ったのがバレたの?」
「一緒にいた女の子が実は事務所の手先で、りえ子達の事全部教えてたんだって」
「まだ他にいるの?アンタみたいな人」
「私はまだいい方だよ。40代の女の人は旦那も割りやってる事知らなくて、同じ様にお客さんと遊んだのがバレて罰金って言われたの。『この事務所辞めるんだったら、旦那にバラすし、子供にもお前がどんな事やってるかみんなバラす』って言われたあげく、事務所の男3人に輪姦されたんだよ!」
「警察に言わないの?」
「うちは旦那も知ってるから恥かくのは少しだけど、旦那、子供、孫のいる人もいるんだよ。恥かくのは自分だけじゃないから、行けるわけないよ」
それから、りえ子だけは何とか抜けさせることが出来た。もちろん逃げの一手で。最後には夜逃げみたいになったけれど、1年間は俺のマンションで同棲していた。でも、ある日突然いなくなった。携帯も繋がらない。
りえ子は割り切りの恐さを十分知ったから、出会い系も止めただろう。幸せに暮らしているだろうか。
実はその頃、ヤフー知恵袋にも相談していた。
今付き合ってるデリの子だけど、もう辞めたいそうです。
でも、デリにいる時に客と仲良くなって、アドや電話番号交換した事が店に知られて、罰金を掛けられてます。
辞めると言ったら、200万耳揃えて持ってこいとそこのヤクザみたいのから脅されたらしく困ってます。
警察に相談しても証拠が無いから、向こうが知らぬと言ったら水掛け論になると思います。
こんな場合どうしたらいいでしょうか。いい案はないですか?
<原文ママ>
それに対する回答がこれだった。
まず、一つ。店が勝手に「罰金」を科すことはできません。「罰金」は刑法9条に規定する刑罰であり、正当な権限を持つ裁判所以外が私的に科すことはできません。
さて、質問に関する回答ですが、まずは「このような脅迫を受けている」と警察に相談するのではなく、告訴しましょう。
<原文ママ>
近頃のヤクザはエグイ事をするようになった。
若い子はすぐに警察に駆け込むため、30代から40代の人妻が狙われている。旦那と子供を傷付けたくないから、彼女たちは逃げ出せない。
出会い系サイトの闇、それを垣間見た出来事だった。
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