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伝説の“巫女抱き”は実在するのか!?とある村に潜入してきた

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伝説の“巫女抱き”は実在するのか!?とある村に潜入してきた
読者投稿30代半ばの男性

 今年の夏、俺は身を襲う暑さに参っていた。
 それにも関わらず、以前勤めていた会社の先輩が、まるでキスを迫らんばかりの勢いで俺に顔を近付け、

「○○(俺)、女を抱きに行くぞ!」

と股間をまさぐってきた。

 この先輩と俺は、こと「エロ」に関する価値観が一致しており、もの凄く気が合うのだが、いかんせん風俗遊びが苦手な俺は、先輩の「女を抱きに行くぞ!」というお誘いを幾度となく拒み続けてきたのである。

 しかし、今回の先輩はかなり本気。
 この人は仕事でもプライベートでも、本気の時は「顔を異常に近付けるクセ」がある。

「○○、お前また断るつもりやろうが、俺の話を最後まで聞いてから断れやっ!」

 俺の股間を掴む力が一層強くなる。
 それと同時に、耳元にめちゃイイ声で





「巫女さんを抱きに行くで…!」





と囁いた。

 おいおい。
 ちょっと、それは聞き捨てならない話である。

 男は「接点が無く抱けない女性」、「抱くことが許されない女性」にめちゃくちゃ魅かれるものだ。
 その欲望が、例えば女子高生のセーラー服、婦人警官、ナース服、客室乗務員など、オプション料金を払ってまで、男を『コスプレ愛』に走らせる理由なのだと思っている。

 その中でも決して抱くことの出来ない女性、いや…決して抱いてはいけない女性。
 その頂点に君臨するのが、神々しいオーラを放つ「巫女さん」である。

 断るにせよ、とりあえず話だけでも聞いてみることにした。

“巫女抱き”の権利を手に入れたぞ



 先輩曰く、とある筋から入った極秘情報だと言う。
 とある県のとある村にある神社では、毎年夏になると女子大生が「巫女さん」のアルバイトをしに来るらしい。
 女子大生たちは昼間、せっせと巫女さんの仕事をこなすのだが、なんと日が暮れた後、彼女たちが巫女さん姿のまま、「夜のアルバイト」に切り替わるらしいのだ。

 夜の巫女さんの斡旋は神主の伝統行事らしく、“巫女抱き”と言って村に古くから伝わる風習なのだそう。
 なんでも、“巫女抱き”をした男には強烈なお清め効果があり、1年間は無病息災が約束されているのだという。
 …まぁ、なんとも罰当たりな話である。

 村の秘め事である“巫女抱き”は、通常ならそこに住む村人にのみ権利があり、ヨソ者には決して与えられないのが伝統。

 先輩は、何やら電話番号が記されたメモの切れ端を指に挟み、

「その権利を手に入れたぞ」

と満面の笑みを浮かべた。

 ふと気が付けば、俺と先輩の周りには数名の同僚たち。
 仕事の打ち合わせの時は近寄りもしないくせに、エロの話になるといつもコイツらは何らかのセンサーが働く。
 きっと男は狩猟本能が退化した分、エロの嗅覚が発達したのかもしれない。

 女子社員に聞こえないように、脂ぎった男たちが小さな声とアクションで、

「巫女を抱きたいかー!?」
「おーっ!」

的なことをやっている。

 女を抱きに行くためだけに、いくつもの県をまたぎ、いくつもの山を越える。
 男のエロパワーを何らかの資源エネルギーへ変換できれば、きっと世界に原発はいらないぐらいのエネルギー量だと思う。

 俺は、とりあえずスッとその場を離れた。

 その夜。
 先輩のワンボックスカーに乗り込んだ同僚たちは、期待に胸を膨らませていた。
 俺は…ちゃんと助手席に鎮座して股間を膨らませていた。
 だって俺も楽しみなんだもん。

 “巫女抱き”という男の夢とロマンを乗せた車は、とある県のとある村へ出発した。
 俺はその村で、生涯忘れることの出来ない強烈な体験をすることになる。

綾瀬はるかが来ますように



『巫女さんを抱く』

 そんな男の夢を叶えるべく、いくつもの県や山を越えて我々は向かった。

 車内は凄いテンションで、あっという間に現地に到着。
 夜に出発して昼過ぎに到着したため、厳密にはあっという間ではないが、そんな感じのテンションだった。

 とりあえず例の神社にお参りに行こうと、運動不足の俺たちがクソ長い階段をゼェゼェと汚い息を吐きながら登りきった。

「うわ~いるわ、いるわ」

巫女 真っ白な「白衣」に、真っ赤な「緋袴(ひばかま)」を身に纏った若い巫女たち。
 なんという神々しさだ…。

 ここには、梅田や心斎橋で見かけるような茶髪の派手なギャルは存在しない。
 艶やかな長い黒髪に、真っ白な肌。
 どこか田舎っぽい、頬が少し赤いところもイイ。

 神聖な神社で、

「一体、どいつが来んだ?どいつが来んだ?」

と鼻を伸ばして巫女を品定めする一同。
 さぞかし気持ち悪い絵だったと思う。

 それと、俺は知らなかったけど、巫女さんって舞を踊るのね。
 神主みたいな人が、「祓いたまえ、清えたまえ」でお馴染みの白い紙が付いた“ぬさ”を振っている時、その後ろで木の枝を持って優雅に踊る若い巫女さんにまた胸がドキドキ…。
 衝撃だったのは、長い黒髪をふわりとなびかせて、神酒みたいなのを奥から運んでくる巫女さんが「綾瀬はるか」似の美女だったこと。
 皆、その美貌と優雅な姿にマジで見とれてしまったのである。

 神社本殿の前では、先輩が

「ここは願い事が叶うパワースポットとして有名らしいよ」

とすかし顔。
 一同、お賽銭に小銭を入れて神妙な顔で願い事をしているけど、それは絶対『さっきの綾瀬はるかが来ますように』だ。

 その後は飯食って酒飲んで、日が落ちるといざ「巫女抱きタイム」。
 先輩がどこかに電話をかけ、車で移動することに。

 何やら古ぼけた旅館のような所に到着。
 雰囲気がいかにも伝説っぽい。
 受付のお婆さんに、「●●さんの紹介で…」と言う先輩。
 お婆さんは「ハイハイ」と頷きながら部屋に案内してくれた。

(ヨソ者なのに簡単に通してくれるんだ…●●さんスゲー!!)

 六畳ほどの和室の各部屋に一人ずつ通される。
 部屋の都合で、俺と先輩だけは薄い壁で隣同士。
 先輩の咳払いとか聞こえて、なんだか気恥かしい…。

 和室の真ん中には、布団と提灯のような暗い照明があった。

「あああ…伝説の巫女抱き…」

 俺は何だか落ち着かず、立って座ってを繰り返すが、下半身は立ったままで、一向に座る気配は無い。

階段が1段だけと思い込んでたのに47段くらい残ってたような衝撃



 玄関を開ける音がした。

(来たっ!)

 俺の部屋に向かって歩いてくる。
 布が『シュシュ』っと擦れる音は、まさしく昼間に聞いた巫女衣装のそれだ。
 神酒を持った綾瀬はるかの姿が脳裏に浮かぶ。
 ふわっとした感じで、俺の部屋の襖が開いた。

 真っ白な「白衣」に真っ赤な「緋袴」、清潔感あふれる巫女衣装。
 手にはお馴染みの“ぬさ”。
 そして、髪はふわりと長…





(え?短っ!ってかパンチパーマ!?)





 そして顔は、綾瀬はる…







(え?三郎?)







 俺の目の前では、巫女衣装を着た










北島三郎北島三郎と瓜二つのババアが仁王立ちしていた。










 逆ブリッジで3mくらい逃げた。
 恐らくは今までの人生で、生きた人間にあそこまで恐れおののいたのは初めてである。
 貞子がテレビから出てきた時よりも驚いた感じだったと思う。

 まだ階段があると思い込んで足を踏み外し、肝を冷やすことが多々あるのと同じように、女子大生が来ると思いこんでの北島三郎。
 あと1段あると思い込んでたのに、47段くらい残ってたような衝撃。

 三郎がニカッと笑う。
 巫女さん相手に失礼だが、その“ぬさ”を貸してくれたらお前に憑いてる妖怪を祓ってやろうか?

(…俺だけか?俺だけがこんな天罰を?)

 そう動揺してたら、隣の部屋から「笑い飯」より感情の込もった

「思うてたんと違う~!」

という先輩の声が聞こえたから、たぶん同じような状況なんだろう。

 先ほどまでは元気だった俺の下半身も、一気に「もやし」みたいになった。
 もう性欲もどこかに飛んで瀬戸内寂聴みたいな気分になってたから、とりあえずお茶を飲みながら話をすることに。

そんなの、いねぇ



 北島三郎の年齢は、俺のオカンより4つ上。
 伝説の“巫女抱き”の話を聞いたら、

「そんなの、知んねぇ」

と美味そうに煙草をくゆらせる。
 真っ赤な口紅の唇が、また無性にムカつく。

「……あの女子大生は?」
「そんなの、いねぇ」

 また紫煙をパカーと吐く。
 口元から見える金歯3本がまたムカつく。

 三郎の長男が東京の会社で係長になった、という話の途中で時間終了。
 お金を払って、悪霊はさっさと退散してもらった。

 集合場所に集まった同僚たちの顔色は、土色そのもの。
 先輩に付いた巫女さんは、「大川栄作」そっくりなオバサン。
 同僚に付いたのは、「前川清」そっくりなオバサン。
 もう1人の同僚に付いたのは、まだ比較的若かったけど「和田アキ子」そっくりな人。

「北島三郎に大川栄作、前川清に和田アキ子か…紅白歌合戦できるな……」

 俺の快心のボケに、誰も笑わなかった。

バチが当たったんだ、きっと



 大阪に戻る車内。
 行き道とは打って変わって、「シーン」と静まり返っている。

 そう、「巫女抱き伝説」なんて初めから無かったのだ。
 伝説の正体は、巫女のコスチュームを売りにした、熟女専門の場末の遊郭だった。

 ただ、誰も先輩を責めない。
 だって、“巫女抱き”に一番目を輝かせていたのは先輩だったんだから。
 その先輩はずっと涙目。
 面白半分で嘘をつかれて担がれた先輩、俺たちは不憫でならなかった。

 おもむろに、先輩は携帯を取り出した。





「ああ、俺や!実は極秘情報なんやけど、××神社に『巫女抱き』って言う……」





 こうして、俺たちのような被害者が拡大していくんだろう。

 大阪に戻るやいなや、泣きそうな顔でずっと手を洗う先輩。
 なんでも、大川栄作に果敢にチャレンジしたが、強烈な匂いに断念したそうだ。
「手に悪臭がこびりついて取れない…」と訴え続けている。

 バチが当たったんだ、きっと。

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