ボッタクリ――。俺が最も忌み嫌う詐欺行為だ。
男性の下心を逆手に取り、巧みに、狡猾に、非人道的に大金をむしり取る…。
警察との熾烈な争いが続く中、逮捕・摘発から逃れられるよう、年々その手口は巧妙化の一途を辿っている。
俺は過去、二度ボッタクリ店に引っ掛かった事がある。いずれも新宿歌舞伎町で遭遇したものだ。
一度目は、2014年6月に執筆した“ぼったくりデートクラブ(店名は不明)”。
Check歌舞伎町の“ぼったくりデートクラブ”で145,000円を吹っ飛ばしてきたwwwww
二度目は未執筆だが、「AV女優が居る」と謳われて入店した、今は存在しない悪名高き“ぼったくりキャバクラ”、『PARLVATI(パールヴァティ)』である。
同店は
PARLVATIとの激戦の様子も、時間を見付けて執筆していきたい。
上記2件のボッタクリに遭って以降、俺は新宿とキャッチが大嫌いになった(完全に自業自得だけど)。
2016年現在、新宿警察は悪質な客引きとボッタクリ店の立件に力を注ぎ、その被害者数は一時的に減少した(ボッタクリ自体は依然として横行中)。
しかし、同エリアの締め付けが厳しくなると、詐欺師たちは新たな稼ぎ場として池袋に目を付けた。奴らが流れ込む今、池袋は新宿に匹敵する危険エリアと言って差し支えない。
そして今月14日、とある男性読者から
池袋でボッタクリ被害に遭いました!
とのタレコミを受け、彼に直撃インタビューを敢行した。
『昏睡強盗』…俺がこれまでに聞いた事の無い、新種の手口だった。
ビールと鍋を囲みながら、ICレコーダーのボタンを押す
件の男性読者をT氏としよう。彼は接客業に従事している、Twitter経由で知り合った人物だ。
T氏と俺は初対面ではない。先月半ばにも池袋で飲んだことがあり、会うのはこれで二度目となる。
そして『昏睡強盗』は、俺と初めて会った後の帰り際、池袋駅西口周辺で遭遇した人生初のボッタクリ事件だと言う。
19時15分、俺はT氏と再開する為に池袋駅東口へ降り立った。最近は急激に肌寒くなり、道行く人たちの服装も変わりつつある。
薄着だった(完全に服装を間違えた)俺は、震えながらT氏との待ち合わせ場所を目指した。
無事にT氏と合流。今回利用した取材場所は、東口付近にある居酒屋「くいもの屋わん」だ。
周囲の雑音が懸念される為、本来インタビューには適さないのだが、とりあえずビールを飲みたかった。
店舗に到着。かまくら風の個室へ通され、T氏と共に腰を下ろす。
同店は、少人数(2~4人程度)の利用なら落ち着ける印象。まずはビールで乾杯しつつ、世間話に花を咲かせる。
特にT氏が注文した「やみつき炊き餃子鍋」は、濃厚なスープが絶品だった。
わんを訪れた際は、ぜひ注文してみて欲しい。
さて、居酒屋レビューはこのくらいにしておこう。
それでは、そろそろ例のお話を聞かせて頂けますか?
そう言いながら、俺は最近購入したボイスレコーダーの録音ボタンを押した。
いいお酒持ってるんで、ちょっとだけ付き合って下さいよ
事件当日(先月半ば)の飲み会終了後、T氏は駅へ向かう為に西口周辺の路地裏を歩いていた。
その道中、居酒屋「あやめ庵」の前を通った時、ビニール袋を持ったスーツ姿の男(以下、X)が現れる。
お兄さん、ちょっとだけお話いいですか?
近付きながら、そう声を掛けて来たX。
名前は名乗らなかったが、自称「仲介人」らしい。年齢は20代後半~30代前半。身長は175cmほど。
黒髪ストレートのその男は、「普通のキャッチ」という印象だった。
T氏は帰宅途中の為、話を聞くつもりは全く無かった。
終電で帰るから店には行きませんよ
今いいお酒持ってるんで、ちょっとくらい飲んで話付き合って下さいよ。人対人じゃないですか
まぁ、ちょっとくらいなら…
T氏がそう答えると、Xは手持ちのビニール袋の中から、酒瓶(T氏曰く焼酎)とコップを取り出した。
お兄さんのお名前は?
そう尋ねられたT氏は、その場で思い付いた「オオノ」と言う偽名を名乗る。
その時、もう1人の男がやって来た。
男は「タカノ」と名乗り、年齢は25歳~34歳。身長は165cmほど。
Xと同様に黒髪ストレート。赤っぽい上着に、下は黒の私服姿だったと言う。
(タカノの)見た目は、いかにも高級店の店員のような雰囲気でした
とT氏は語る。
ほろ酔い状態のT氏は気を許し、Xから差し出された酒を飲んだ瞬間、一気に酔いが回る。
そのタイミングでXが立ち去り、酩酊(めいてい)状態の中、タカノと連絡先(電話番号)を交換したと言う。
そして気付くと、T氏は「アメジスト」と言うホテルに居た。
あともうちょっとで女のコが来ますから
頭痛がする中、ホテルのレシートを確認すると、入室時間は23時50分。
現時刻は1時50分。どうやらベッドに倒れ込み、1時間ほど眠っていたようだった。
T氏は困惑した。Xとタカノと会った後(厳密にはXの酒を飲んだ後)からの記憶が無い。
更にこの時点で、財布の中に入っていた5万円が消えていた。
予期せぬ事態に焦るT氏。
(ホテルに来るまでの間にタカノに5万円を渡したか、抜かれたという事か…?)
だが、携帯の着信履歴を見る限り、タカノは度々電話を掛けてきていた。
そして再び着信音が鳴り、T氏が出ると、タカノは開口一番こう言った。
あともうちょっとで女のコが来ますから
(何言ってんだコイツは…?)
当然、T氏にデリヘルを利用した覚えは無い。そもそも、Xから渡された酒を飲んで以降の記憶が飛んでいる。
その間に何が起きたのか、T氏には一切分からないのだ。
いや、何言ってるか分かんないんですけど…
そう答えると、タカノは思い掛けない言葉を口にした。
いやだって、オオノさん僕と“契約”したじゃないですか
は?契約ってなんですか?
オオノさん僕の話を聞いて、ウチの店を利用するって言ったじゃないですか
混乱する中、T氏はタカノに事の経緯を尋ねた。
いいですかオオノさん。僕はあの時、こう言ったんですよ
Xの酒を飲み、酩酊状態に陥った後の会話(タカノ談)
僕は高級デリヘル店の外部スタッフです。僕自身も大手の者と繋がっているので、お兄さんが知っているような芸能人やAV女優をご案内できるかもしれませんよ
(記憶なし)
上原亜衣と宇都宮しをんと松岡ちな、この3人を今日はご案内できます!
(記憶なし)
45分5万円で宇都宮しをんを出しますよ!
(記憶なし)
ありがとうございます!それではご案内しますね
上記が、T氏と交わしたやり取りだとタカノは言う。
居酒屋のインタビューより
何も飲んでいない状態だったら嘘だと思って、「そんなの興味ないんで」って言うところなんですけど…
まぁ、相当酔わされてましたもんね…
相当酔ってるか、そもそもヤツ(X)が持って来たお酒の中に、既に何か仕込まれていたのかもしれません
あ、そんな感じでした?
仕込んだような感じは分からないですけど…ただ、お酒にそこまで強くないとは言っても、あの程度(焼酎コップ1杯)じゃあ記憶が無くなる事はまず無いです。だから、絶対何かしら盛られてるんですよきっと
なるほど。その位のお酒だったら所々記憶が飛ぶ事はあっても、完全に飛ぶ事は無いと
確かに客観的に考えても、例え「ほろ酔い」状態でコップ1杯程度の酒を飲んだところで、T氏のように完全に記憶が無くなる事はまずあり得ない。
つまり、Xが持っていた酒瓶の中には、睡眠薬などの“何か”が入っていた可能性が非常に高いのだ。
多分お兄さん、騙されてますよ
シーンを戻そう。
T氏が酩酊後の経緯を聞いて困惑する中、タカノはこう告げた。
派遣する女のコの盗撮とかされたくないので、ソレ(盗撮機材の所持?)をウチの社員の者が1回だけ確認しに行きます
居酒屋のインタビューより
で、実際来たんですよソイツ(社員)が
どんなヤツだったんですか?
アレは中国人です
中国人?日本語が喋れなかったとかですか?
喋ってはいますけど、カタコトです
T氏は仕事柄、外国人の知人が多いらしい。その背景もあり、中国人の話す日本語と、韓国人の話す日本語を区別できるとの事。
だからこそ、自称「社員」が来た瞬間に中国人だと分かったそうだ。
この時点で、T氏は『やられた』と確信したと言う。
まさかの事態に震えるT氏。
その後も度々、タカノから電話が入る。
前のお客さんが延長してるんで
ウチも今お客さんが立て込んでるんで
予約が入っちゃったんで、ちょっと待ってて下さい
そんな「派遣できない言い訳」を聞きながら待機し続けるうち、気付くと時刻は朝の7時を迎えていたと言う。
その後T氏はホテルのフロントへ向かい、従業員にXとタカノの話、入室した経緯を説明した。
すると、従業員はこう言った。
度々こういう(アメジストに連れ込まれる)人は居ますし、「(女のコを)待ってても来ない」と言う人も何人も居ます。多分お兄さん、騙されてますよ
従業員の言う通り、このまま待ち続けても女のコは絶対に来ないだろう。
次の日は仕事がある為、T氏はフラつきながらホテルを後にし、帰路に就いた。
放送してるのに、どうしてキャッチに付いて行ったの
翌日、タカノに電話を掛けても出ない。
コール音は鳴る為、着信拒否はされていないようだったが、唯一の連絡手段が断たれてしまう。
この時点の被害額は、タカノに支払った(と思われる)5万円とホテル代の9,660円(レシートから判明)、計約6万円である。
そして仕事を終えた後、T氏は被害届を提出する為、池袋駅西口交番を訪れた。
交番の警察官に、昨夜の出来事を説明する。
今回の件、被害届を出したいんですが
こちら(交番)では対処しかねます。被害届を受理するといった事も判断できませんし、確定もできません。今ここで出来るのは、あなたの話を警察として聞くくらいです。その後の事は、こちらは何も約束できません
もう少し歩くと池袋警察署があります。そこの生活安全課に専門の刑事が居るので、とりあえずそちらで話をして貰ってもいいですか?
そう指示され、池袋警察署へ向かったT氏。
担当刑事2人に開放感のある小部屋へ案内され、事情聴取を受けることとなる。
まずはあなたの住所と名前、それと何が起きたかを話して下さい
T氏は再度、事の顛末を説明する。
すると刑事はまずこう言った。
どうしてキャッチに付いて行ったの。あなたはそういう(夜遊びをする)人かどうかは分からないけど。ただ、池袋でキャッチに付いて行くなって放送はしてるよね?
俺自身は耳にした記憶は無いが、T氏曰く東口周辺(サンシャイン通りなど)では、そのような注意喚起を促す放送が流れているそうだ。
ただ、西口では聞いた事が無いとT氏は言う。
最近、同じような被害を訴えてる人が多いんだよね。警察としても、出来るのは注意喚起をするくらいだから
相手(タカノ)の電話番号が分かっていても、個人情報の開示請求をする事は正直難しいし、それをしたところで「飛ばし携帯(他人や架空の名義で契約された携帯電話)」だったら犯人に繋がらないんだよ。この類(ボッタクリ)の事件で、犯人が捕まるのは相当珍しいケースだね
仮に相手がどこかに事務所を構えているとしても、奴らの後ろには悪知恵が働く奴ら(暴力団?)が居て、警察が動けないギリギリのラインを攻めて来るから、こっちとしてもイタチごっこなんだよ
捕まえようとしても捕まえられないし、仮に捕まえたとしても新しい手口で同じような被害が増えるだけ。警察としては、今までの手口の被害者を増やさないようにするのが限界だから
あなたのように被害を訴える人が居る事で、警察は情報を共有できるし、注意喚起もできるけど、今回の犯人は捕まえられないよ
結局、T氏が希望した被害届は受理されず、泣き寝入りをするほか無かったのである…。
『昏睡強盗事件』の問題点
T氏のインタビューから、詐欺師たちの悪質な手口が浮き彫りとなった。
以下より、本事件に対する個人的な見解を述べる。
その1.最大の失敗は、キャッチを信用してしまった事
T氏のケースに限らず、基本的にキャッチの言葉は嘘だと考えるべき。
事実、ボッタクリ被害が多発中のエリア(特に新宿と池袋)では、注意喚起を促す放送も流れている。
とは言え、その放送を耳にしない可能性もあり、中でも観光客にとっては真意が伝わりづらい。
諸悪の根源は詐欺師たち(ボッタクリ店のキャッチも含む)だが、実際問題、被害に遭わなければ分からないのが実情だろう。
また、キャッチは口が非常に上手い。
しかも奴らが狙うのは、「酔っ払った(またはほろ酔い状態の)男性」である。酒が入り判断力が鈍る中、巧みな話術で歩み寄られて下心を刺激され、キャッチを信用してしまう男性が後を絶たない。
ボッタクリ被害に遭わない最良策(夜遊びをする際)は、絶対にキャッチに付いて行かず、無料案内所を利用する事。
コレに尽きる。
その2.酒瓶に仕込まれた“何か”と、自称「社員」の謎の中国人
T氏から本事件の概要を聞いた際、まず最初に驚いたのが「酒瓶を持ったキャッチ」の存在である。
そして確証は無いものの、酒瓶の中にはT氏が記憶を失うほどの“何か”が仕込まれていた。
俺の経験上、このような手口は今までに聞いた事が無い。
正直なところ、ほろ酔い状態とは言え、キャッチが差し出した酒を口にするのは多少不用心と言わざるを得ない。
が、冒頭でも述べたように、T氏は今回のようなボッタクリ被害に遭うのはこれが初めて。話術が巧みなキャッチに気を許すのも無理はない。
その上、酒瓶に何らかの薬物を混入させていたのなら、極めて悪質な手口である。
そしてタカノに指示され、T氏の部屋を訪問した謎の中国人。
この自称「社員」を派遣し、「確認」をさせた理由は不明なままだ…。
その3.個人の犯行ゆえに、証拠を残さずアシも付かない巧妙さ
通常のボッタクリ店は「店舗型」の為、警察もその存在を把握しやすく、違法店と判断した場合は従業員の逮捕・摘発などの措置を講じる事も可能だ。
しかし、今回のような個人(または詐欺師グループ)による犯行…つまり「無店舗型」の場合は立件が非常に難しい。
本事件における唯一の手掛かりはタカノの携帯電話番号だが、先の刑事の言う通り、飛ばし携帯の場合は犯人の足取りを追う事は困難を極める。
証拠を残さず、アシも付かない手口から、それなりに練られた計画的犯行と言えるだろう。
その4.ボッタクリに遭ったら、警察は助けてくれない
ボッタクリ被害者は既知だろうが、警察は民事不介入の原則から、本事件のような「個人間のトラブル」には対応できない。
実際、歌舞伎町の交番前には夜な夜な多数の被害者が訪れるが、その誰もが
お互いに話し合って決めて下さい
と言われるのが関の山。
唯一警察が動くのは被害届を提出した時だが、ボッタクリ被害の届けが受理される事はまず無い。
何故なら件の刑事の言う通り、警察はボッタクリが多発するエリアにて、街頭スピーカーによる注意喚起を促している。その為、『警告しているのだから自己責任』というワケだ。
また、被害者と犯人の間に金銭授受(きんせんじゅじゅ)の事実があったとしても、その金額と授受現場を証明する術が無い。確実な証拠が無い以上、「店に入った」「入っていない」、「金を払った」「貰っていない」などは全て水掛け論でしかないからだ。
以上の理由から、ボッタクリ事案の場合は警察は頼れない。万が一被害に遭った場合は、「勉強代」と諦めるしか無い。
自分の身は、自分で守るしかないのだ。
最後に
実はT氏は、未だ不安を拭えずに居る。それは事件当日に所持していた、「クレジットカードの請求金額」である。
T氏は諸事情により、Web上でクレジットカードの利用代金(Web明細書)を確認できない。
その為、
先月の請求書が届くまでは安心できないんですよ…
と、内心穏やかではない。
不幸中の幸いと言うべきか、現金の被害額は約6万円と、平均的なボッタクリの金額に比べて軽微ではある。
しかし、Xとタカノが「現金以外」に手を付けていない保証はどこにも無い。
+αの可能性がある以上、本事件はまだ終わっていないのだ。
インタビューを終えた後、T氏はこう語っていた。
やっぱりキャッチは信用しちゃいけないと思いました
全く同感だ。そう思えたのなら、今回の経験も決して無駄ではない。
ちなみに俺は、新宿でボッタクリに遭遇して以降、『キャッチは路上を歩くゴミ』と認識している。
池袋で起きた『昏睡強盗事件』…もしかすると、同様の被害に遭った人も居るかもしれない。
いずれにせよ、新宿と池袋は“ボッタクリのメッカ”である。読者諸兄もくれぐれも注意して欲しい。
ボッタクリ店と詐欺師たちに、不幸あれ。
スーパー萌に行った時、帰ろうとしたら店のスタッフから「今池袋は歌舞伎町のキャッチがたくさん流れています。非常に危険ですから絶対に声を掛けられても無視してください」と何度も念を押されました。おかげで被害に遭うことなく帰れたのですが、池袋も怖くなりましたね。
僕も以前、同業の方に全く同じ事を言われました…(´Д`)
東口方面はそうでもないのですが、西口界隈はボッタクリ被害が増加しているようです。
夜遊び時はキャッチは無視して、無料案内所を利用するのが安全ですね。