割り切りをやめて数ヶ月。
最初のうちは、定期だった子たちから「また会えませんか?」というメールが頻繁に届いていた。
しかし、私に彼女ができたこと、もう割り切りはやめたことを伝えると、それは少しづつ減っていった。
やはり、お金が介在している関係は不自然だ。
「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉を、僕は身に沁みて体験した。
その中でも、強く記憶に残った少女たちを紹介したい。
今では、彼女たちの無事を祈るばかりである。
ケース1.A子
Aちゃん、いやAさんと呼ぼう。
元レースクイーンの経験を持つAさんは、スレンダーで美人系……「だった」
会うのはいつも立川と決まっていた。
彼女は初めて会った時から嘔吐を繰り返し、指には大きな「吐きダコ」があった。
毎時間体重計に乗り、「今日の体重は何十何キロ何グラム…」とグラム数まで気にしていた。
目は痩せくぼんでいて、どこかギラギラしていた。
典型的な拒食症である。
服を脱ぐとアバラどころか、腰骨までクッキリと見えた。
体重を減らすために、浣腸を常時使用しているため、もはや自力での排便は不可能。
「医者からはマシになってきたって言われたんだ」
そう言って、彼女は笑った。
体重が極端に落ちると、カリウムや電解質が全て流れ出すため、生命に危険な状態となる。
初めて僕と会ってから半年音沙汰がなかった時は、隔離病棟に強制入院させられていたらしい。
「また病院に行くことになったから、お金が必要になっちゃって……」
彼女からの連絡は、いつもそんな調子だった。
それでも待ち合わせに行くと嬉しそうに手を振り、歩く時も腕にしがみついてくる彼女に、割り切りなのはわかっていたが、悪い感じはしなかった。
恐ろしく軽かったが。
もともとは、対人恐怖症から発生した拒食症だ。
そんな子に笑顔をみせられたら、つい嬉くなってしまう。
だが突然、何の前触れもなく音沙汰が途絶えた。
こちらからのメールは届かない。
電話もつながらない。
そして当然のように、ワクワクからも退会した。
しかし、気になる点が1つある。
立川住みだったハズの彼女の最後の登録地が、いつの間にか僕の隣町になったまま退会していた。
そんなある日、地下鉄に乗り換えた時、突然彼女からの電話が鳴った。
だが地下鉄のトンネルは、その電波を消し去ってしまった。
折り返しても、もう繋がらない。
そしていつしか、その番号は解約されてしまった。
今はどうしているんだろう。
多くは望まない。
生きていてくれれば、それでいいのだ。
ケース2.B子
そして次は、Bちゃんの話。
少しぷっくらとした彼女とは、阿佐ヶ谷で会った。
この子とは一度しか会わなかったが、とにかく明るかった。
ご両親が不在で弟の学費が払いきれず、割り切りをしていた記憶がある。
聞けばBちゃんも内臓疾患で、病院に行くと言っていた。
「重い病かもしれない」
そんなことを言っていた記憶がある。
なぜか連絡先は交換しなかった。
「検査が終わったらまた会いましょうね」
そう言って、彼女と別れた。
Bちゃんのプロフィールは、今もそのまま残っている。
「今週いっぱいで元気になるつもり」
そんな一口コメントを残したまま、最終ログインは2009年から更新されていない。
最後に
出会い系サイトでの出会いは儚い。
彼女たちが何を思ってサイトに加入し、どんな思いで割り切りをしていたのか。
それは人それぞれであり、誰にもわからない。
ただただ、彼女たちの無事を祈るばかりである。
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