
今日は、以前わたしと同じ店に在籍していた不思議なキャストの話をしよう。
なぜか掲示板で連日名前の挙がる女の子
彼女の名前はEとする。Eは、一見おとなしそうな印象のキャストだった。栗色の髪の毛に、化粧もそこそこに小奇麗にしているが、とにかく地味なのだ。顔のパーツ自体が小ぶりで控えめ、服装や持ち物も派手ではないため、本当に目立たないキャストだった。連日出勤しているものの、ランキングは圏外で店からも推された事がない。
にも関わらず、なぜか掲示板に店スレどころか個スレが立ち、毎日のように賑わっているのだ。
いつも暇そうに携帯をいじったり、お菓子を食べたりしているE。繁忙期ならまだしも閑散期になると、それこそ「待機室の主」のようにずっと居座り続けている。
わたしは店のキャストにはあまり深入りしないようにしていたが、何度か話し掛けてきてくれて、仲良くなったキャストが教えてくれた。
「あの子、毎日お店にいるよね…」
「いつも待機にいるけど、めっちゃ掲示板荒れてない?」
この業界、やはり掲示板の書き込みは気になるもの。
「彼女、相当なホス狂いみたいなんだよね…」
「え、そうなんだ!なんかビックリ。ホストに貢げるぐらい稼げるのかな?」
「わたしも又聞きだからなんとも言えないんだけどさ…」
そのキャストが教えてくれた話は、衝撃的な内容だった。
だから、彼女の個スレは荒れている
「あ、あの子この店に指名いるんだね!」
仕事帰り、ホストクラブに顔を出してみて驚いた。Eがいたからだ。
失礼な言い方だが、万年暇嬢でいつも生活感漂う服しか着ていないEに、ホストに来る余裕があるとは思えなかったのだ。
「そうそう。そうなんだよ、あの子」
担当(指名ホスト)がお酒を作りながら言う。長い付き合いになる、友営(友達営業)のホストだ。
「ビックリ!同じ店なんだけど、いつも待機にいるよ。あの子お金遣うの?」
「遣うどころか、エース(太客)だよ。あー…確かに裏引き(店を通さずに客から金銭を貰う事)っぽいけど」
見ると、Eの卓には高い飾りボトルがたくさん並べられていた。しかも、指名しているのは「色恋枕」と名高いナンバーワンだ。
その日も同じ店のキャストの視線に気付かず、何本かシャンパンを入れていた。
そう言えば、以前客から聞いた事がある。Eを指名すると店外を持ち掛けてきて、1回5万で何でもさせてくれると。動画もアナルも、中出しも全てOK。しかも、長時間のプレイも可能なんだとか。だから、彼女の個スレは荒れていると言う。
確かに掲示板を覗くと、粘着としか思えない書き込みで溢れていた。ストーカー気質の客と関係を持ったのだろうか。
大して売れてもいないのに、ずっと話題の絶えないEが不思議でならなかった。
金と担当ホストを掴み取りたい『ホンカノのEちゃん』
「店ではどんな感じなの?」
担当も気になるのか、Eの話で持ちきりだ。
ホストクラブはこういうところがある。指名客同士の情報が筒抜けになってしまうのだ。
ホスト達は他の客をけなす事で、自分の客に優越感を持たせて煽るテクニックをよく使う。例えば、見える範囲にわざとブサイクな新規客を座らせたり、可愛い客を配置するのも然りだ。
確かに、それはホストクラブの経験が少ないライターのわたしでも共感できた。
「なんか、ずっと待機って感じ。でも、エースって凄いね。相当遣うんでしょ?」
「まぁー…遣うには遣うんだけど。痛いんだよねかなり。ホンカノとか自演しちゃってる感じ」
Eは店に来るたびに、いつも律儀に指名ホストの帰りを近くのマックで待つという。どれだけ長くなっても、他の客との枕で夜が明けたとしても。どうやら、『彼女』だと思い込んでいるらしい。
そして、『彼』の部屋に入ると、自分の店用の写真をパシャパシャと撮り出すのだそうだ。もちろん、部分的に指名ホストが映り込む事もあるのだが、それをスタンプや落書きで丁寧に消して日記にアップするらしい。
「何のために?意味わかんない」
お客様はもちろん、他の男性が映り込んだ写メなど嫌に決まっているだろう。キャバクラとは違い、風俗はそこまで「彼氏なし」を徹底せずとも良いのかもしれないが…。
指名客にとって、心中穏やかでないのは確実だ。
「ホンカノだと思われたいんだよ。同棲ありの」
「えっ?」
ウンザリしたように担当ホストが言う。驚きを隠せなかった。掲示板でも、『ホンカノのEちゃん』などと自分で書き込んでいるらしい。そうして、ホンカノをネット上で演じ続けているのだ。
とにかく彼女だと、自分は特別だとアピールしたいのかもしれないが…そんな事をすれば、他の指名客から睨まれるのは当たり前だ。そのため、Eの店スレや個スレはいつも荒れている。
「偶然とかじゃなくて?」
「毎回、指名してるホストにはそうらしいよ。Eって結構地味な感じじゃん。それなのに、毎回ホンカノだって話が出る。まぁ同棲アピールとか始めたのは最近っぽいけど…。AVも出てるらしいけどね」
最近のAVは稼げない。一昔前までは、ある程度レベルが低くとも「単体」と呼ばれる主演のAVを出すことは簡単だった。だが、有名なAV女優が誕生すると一気にAV業界のキャストの質が上がり、今やアイドル感覚で脱ぐ女性も増えた。
スカウトは「修整技術もあるし、AV女優も多いから…」と口説き、ドンドン契約を取っていく。女性側も、不特定多数と性行為をする必要がなく、『楽な仕事』と考えているようだ。
とはいえ、お金と担当ホストを手に入れようと必死なEに、少し恐怖を感じたのだった…。
最後に
実はEのような女性は少なくない。ホストクラブにどっぷり浸かっている女性は、むしろ多いと言える。
彼女たちは「担当ホスト」という男性の向こう側に、きっと多くの女性を見据えているのだ。
自分より可愛い客、自分より稼げる客。そんな女性に負けないよう、『担当ホストに愛されている』という一点を勝ち取ろうとしているのかもしれない…。
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