ライター夕花みう
「これは俺の友達のお客さんの話なんだけどさ…」
そう切り出したのは、地元の数少ない男友達だ。
多分、人より欲とコンプレックスが強くて、不器用で、少しだけ壊れている…そんな風俗嬢の話である。
仕事熱心で、どの店スレにも名前が出てくる女の子
その男友達の友人Aは、そこそこの売れっ子ホストだった。
わたし自身はホストに入れ込んで通う事はないのだが、女友達と盛り上がりたい時、ごくたまに初回料金で安く入店することはある。そのわたしですら、彼の名前は聞いたことがあった。
その女の子(以下、Bとする)も売れっ子風俗嬢…のはずなのだが、どうやらマイナスの知名度のほうが高いようだった。“夜の掲示板”として悪名高い「ホスラブ」にも、ズラリと悪口が並ぶ。本名が特定され、整形前の写真まで出回っていた。
「え、凄い叩かれ方だね…ヤバ…。そんなに痛い子なの?」
「うーん、まぁ…ぼちぼち痛いんじゃない?ホストにがっつりハマると、みんな痛くなるよ。それだけ稼がなくちゃいけないし。でも、その子の場合は色んなホストに行って色んな担当がいて、しかもお金で買おうとするからね」
Bは、ホストクラブではほとんどお金を使わないらしい。だがそれは、あくまでも「店の中では使わない」という意味である。個人的にホストをヒモにしたり、同棲して養うなどはザラにあるようなのだ。
ほぼ毎日オープンラストで店に入り、真面目に出勤しているB。風俗一本とはいえ、とても真似できない。わたしは学校と兼業しているせいもあるのかもしれないが、週3、4回で体力が限界だった。それに、精神的にもかなりキツい。
野次馬根性のようで恥ずかしいのだが、Bのお店のHPを覗いてみた。ギャルメイクなものの、黒髪のロリ系で可愛らしい印象のキャストだった。日記もマメに更新していて、特に痛いと感じる内容もなく、『仕事熱心なキャスト』という印象だった。
「最初は誰でもそう思うよ」
Aも叩かれるだけの理由が見当たらないので、『どうせ同じ店のキャストの妬(ねた)みだろう』くらいにしか思っていなかったという。事実、Bのお礼日記には『貸切ありがとう』、『予役完売で幸せ』、『今日も仲良し様で完売!』など、常連客へのお礼メッセージがたくさん並んでいたからだ。
「スゴイね。今どき、そんな指名呼べるキャスト聞いたことないんだけど。なんか秘訣でもあるの?」
そうAが尋ねると、Bは嬉しそうに照れてこう言ったという。
「それは仲良くなったらわかると思うよ!」
初回の印象は至って普通。ポータルサイトでも人気があり、一応アクセスランキングにも入っていたという。
ホスト達のイメージは、『どの店スレにも名前が出てくる女の子』だったらしい。
店にも来ない、金も使わないBの目的
Aは有名売れっ子キャストを客にすることができたと、最初はテンションが上がったという。マメに連絡をしたし、Bからもハート付きで恋人のような文面が頻繁に届いた。感触は上々だ。
だが、予想に反して来店頻度も上がらなければ、店でもなかなか金を使わない。休みの日にデートをするなどの先行投資もしていたため、Aはさすがにヤキモキし始めた。
とある日、ベロベロに酔っ払ったBから電話が掛かってきた。
「もしもし?すごい酔ってんじゃん。大丈夫?」
「うううん、大丈夫じゃなーい」
(ウザいな…来店の約束させたらすぐに切ろう)
「大丈夫じゃないの?俺に会いたいの?」
ここでBは衝撃の回答をする。
「うううん、じゃなくて…ヤりたい。ねぇ、いくら出せばヤってくれる?お金なら出せるから」
驚いた。
もはや援助交際である。この一言が衝撃的すぎて、AはBと連絡を取るのをやめることにした。
しかし実は、彼女がこのような話をホストに持ち掛ける事は裏ではとても有名で、言われたのはAだけではなかったらしい…。
そして、思わぬ後日談を聞く事となる。
ランキング見てみなよ。嘘つきなの、アイツ
ある日、Aが初回にやって来た客と話していると、偶然にもBと同じ店のキャストだった。
「Vってお店で働いてるんだけどー」
「あぁ、分かるよー」
「うちの店に有名なホス狂いがいてねー」
(きっとBだな)
予想は付いたものの、お客様のプライバシーに触れるのはNG行為である。Aは黙っていたが、客はお構いなしに話し出す。
「Bって子でかなり有名はなず。ここにも担当いたらしーよ。あの子ほら、ホスト相手に援交とかしたがるから評判悪いじゃん。有名どころが好きだから、その援交もあんま成功しないらしーんだけどさ、たまーに新人とかは釣れるみたい。嬉しそうに待機でしゃべってるよ」
援助交際の事を待機部屋でペラペラと喋る…タチが悪い客である。しかも、行為の内容についても事細かに話すらしい。
ガールズトークがエグいのはもはや通説だが、それを誰彼かまわず話すのだからタチが悪い。相手のホストもいい迷惑だろう。
「でも、確かBちゃんって有名風俗嬢でしょ?貸切とか指名とか物凄いって…」
そう言うと、客は笑い出した。
「ランキング見てみなよ。圏外だから。あれ、ぜーんぶウソだよ。嘘つきなの、アイツ」
“理想のわたし”のための嘘
後日、客に言われた事が気になったAは、Bのお礼日記を見てみた。
『半年ぶりに指名してくれてありがとう。相変わらず可愛いねって褒めまくってくれてありがとうー、照れちゃった』
『1年半ぶりだね!どうしてそんな可愛いのってじっと見られて照れちゃったー』
「可愛い」のオンパレードだった。まるで、自分に言い聞かせるかのように。
彼女はお礼日記でも「可愛い」を連呼していた。虚しい虚しいその行為。本当は来店すらしていない客との会話を作り、「褒められた」と嘘を書く…。一体、何のための、誰のための嘘なのだろう。
だが、同じ女性としてBの気持ちは分からなくもない。
彼女は自信がないのだ。だから、「可愛いね」と言われたくて、認められたくて、ただそれだけのためにお金を使い、援交と整形を繰り返す…。“理想のわたし”になるためには、その延長線上で嘘をつく事すら、Bにとっては当たり前のことなのだ。
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