これはかなり昔の話。
たまたまPCMAXの日記を読んでいて、魅惑的な写真のある日記に出逢った。
愛くるしい笑顔、下着姿だが褐色でグラマラスな胸、豊かなのは胸だけで、腹はフラットという理想の体型。
決して若くはないが、下手な20代より均整が取れたスタイルだ。
日記の文章はつぶやきのような簡単なモノだったが、興味を惹かれコメントを入れてみた。
次にサイトにログインした際、彼女からの丁寧な返コメがあった。
私は嬉しくなり、彼女が日記を更新する度に何度かコメントを入れたが、返コメがあったのは最初だけだった。
日記を読む場合、単純に「読み物」として読む場合と、相手との「コミュニケーション手段」として読む場合がある。
私は彼女に対して、後者の立場だったのでガッカリした。
だが、彼女の日記の閲覧者はいつも数百人単位、コメント数も数十件ととても多い。
返コメする立場からすれば、大変だし致し方ないことだ。
しかし、やり取りがないと何も始まらない…どこかで見切りをつけなくては。
「これで最後」と決めてコメントを残すことにした。
「なんとか打開してやろう」というような気持ちはサラサラなく、たった1行の簡単なコメントだったが、思いかけずに彼女からサイトメールがあった。
今考えると、それは取り方によっては質問にもなり得る1行だった。
これは千載一遇のチャンスかもしれない。
私は彼女の容姿が気に入っただけで、どういう人かまでは知らない。
性格も気に入れば親しくなりたいと思うが、それにはまずリアルで逢ってみないとわからない。
単純に考えて、数百人の閲覧者の中で逢うのなら、少なくても二桁、下着の中も見れるくらいに親しくなるのなら、少なくても一桁に数えられる存在にならなくては話にならない。
そんな野望を抱きながらサイトメールを返し、彼女とのやり取りが始まった。
直アド交換
サイトメールのやり取りを数回して、私は直アドを送ってみた。
するとその数分後、彼女の直アドからメールが会った。
「いけるかも」
私の期待は、いやがうえにも膨らんだ。
メールのやり取りでお互いを知り、盛り上がって「逢いませんか?」となるパターンを思い描いたが、それは簡単に打ち砕かれた。
彼女にメールを送っても、返事は気まぐれ。
回答が面倒な質問や、それで会話が終了してしまうメールには返事がこない。
日記はつぶやき程度、プロフィールも形通りとなると、私の人柄を知ってもらうためには、自分のメールで開拓していくしかない。
このままでは、「自然消滅」の4文字しか思い浮かばない。
期は熟していないが、思いきって「来週もしくは再来週あたり如何ですか?」と誘ってみた。
返事はなかった…。
その間にも、毎日のように彼女の日記の更新は続き、お知らせメールが届く。
彼女は『日間・月間・総合』のいずれの日記ランキングにも名を連ねる、日記ランカー常連である。
登録読者数は700人前後、写メコンをやっていた頃は、さらに上位の常連だったそうだ。
そのぶんファンも多く、言い寄る男性も非常に多いだろう。
(やっぱ、そんなに甘くないか…)
1週間待って、再度メールをする。
期待はしていなかったが、彼女から返信があった。
「仕事の進捗度が読めないから、前日に誘ってもらえる?」
(ヨッシャー!)
私を含めた男性の、女性に対する思考は極めて単純である(笑)
しかし、本当の「忍耐ゲーム」はこれからだった…。
錯綜
さっそく、次週に彼女を誘ってみたがNG。
めげずにその翌週に再度トライし、ようやく「予定は入ってないから大丈夫」とOKをもらった。
待ち合わせ場所は、彼女の地元からひと駅のK駅。
待ち合わせ時間は、彼女の仕事の終わる時間が読めないため、当日の午後に連絡をもらうことになった。
しかし…その時間になっても連絡がこない。
待ち合わせのK駅は、私の所からゆうに1時間以上を要するため、待ち合わせ時間を早めに知る必要があった。
16時頃に、「そろそろ、待ち合わせ時間は見えてきましたか?」とメールを送ったが返事なし。
(何かトラブル発生か?)
何も情報がないまま、17時半すぎに見切り発車で待ち合わせ場所に出発する。
その10分後、彼女からメールがきた。
文章はたった3文字。
どういう意味?
こちらのメールは読んだのか?
待ち合わせ場所に移動中なのか?
いずれにしろ、仕事は終わったらしいので、ダッシュで待ち合わせ場所に向かう。
慌しく移動しながら、ふと彼女のプロフィールを確認する。
私は、相手の血液型という項目を必ずチェックする。
偏見かもしれないが、情報が少なく初めて逢う相手なら、簡単なイメージだけは持っておきたい。
彼女の血液型は、「マイペースで自由奔放」なあの血液型…。
(やっぱり…またか)
私はO型であり、彼女の血液型との相性は良いと言われている。
もちろん、相性が良いと言われているだけで、得意げにしているわけではない。
サバサバしてバイタリティに溢れ、魅力もあって自由奔放な面に驚かされる事も多々ある。
しかし、私の相手はなぜかこの血液型が多い。
彼女に「待ち合わせ場所には、何時頃つきますか?」とメールしたら、「K駅にはいけない」と返信がきた。
待ち合わせ時間も判明せず、待ち合わせ場所も拒絶…途中で梯子を外されてしまったのだ。
さすがにカチンときて、返信をする。
「どこならいいの?」
彼女の要望は、K駅のひと駅となりの地元M駅。
(最初から、そう言えばいいのに)
よっぽどマイペースか、気が乗らないかのどちらかだろう。
このとき、私は道のり行程の2/3くらいの所にいた。
自分の中の他心が囁く。
「お前、本当に行くの?この状態なら逢っても時間とお金の無駄だぞ。シカトして帰っちゃいなよ」
それに対して、自分の中の良心が反論する。
「自分から誘ってドタキャンするのか?逢ってみないとわからないじゃないか」
私は腹立ちながらも、この女性の顔を一度見てから決めようと考えた。
そして駅に着き、待ち合わせ場所で彼女を待つ。
(まさか、ここまで来てすっぽかしはないよな…)
彼女は現れた。
写真やプロフィールに偽りはなかった。
(やれやれ…)
ようやく、私の野望に向けてチャレンジが始まった…。
心痛
ようやく出逢えた私は、彼女と駅前の居酒屋に入る。
彼女はメールでは言葉少なだが、会話は不得意ではないらしい。
彼女の仕事の話やバツになった経緯、前彼の話など、ざっくばらんに話してくれた。
彼女とのメールのやり取りや逢って語った言葉で、印象的だったのが次の3つのセリフである。
「相手はほしいけど、自分の仕事や生活が確立してるから、それを崩してまで相手に合わせようとは思わない」
「サイトの男性は妙に構えてて、口説くのが下手。女性が誘うのを待ってるような男性に魅力を感じない」
「日記やリアルでよく褒められる。嬉しいけど、『だから何?』と思う。『褒める』のと『口説く』のは全然別物」
会話は弾んで盛り下がってはいないが、何か違和感を感じた。
そうだ…私と彼女は対面で座っていたが、アイコンタクトがないのだ。
彼女は私のネクタイの部分を見て会話をし、視線を合わせないのである。
「いい男すぎて見られないのか?笑」「彼女はシャイなんだ」
こう考えられるほど、私は能天気野郎ではない。
視線を合わせないプラスの要因が思い浮かばない。
彼女と知り合ってから私にした質問は、「どうしてこういうハンネにしたの?」のみ。
つまり、それだけ関心が低いのであろう。
この2つの事実は、正直キツい。
少し…心が折れそうになった。
そんな思いをしながら、2時間程で店を出る。
弱気な自分が囁く。
「敗色濃厚だ、いったん出直して少しづつ関係を詰めた方がいい」
これに対して、強気な自分が反論する。
「お前、これで帰るの?気に入ったのなら口説けよ。男だろ?」
「駅はあっちだよ」
彼女は残酷に言う。
「撤退」か「強行」か、決断しなくてはならない。
前進
「ちょっと散歩しない?」
私は腹を決めた。
旗色は極めて悪いが、安全策を取ってもこの女性相手に次があるとは思えない。
ヤキモキしながら次の機会を待つのなら、今回の僅かな可能性にかけて、ダメなら玉砕してスッキリしたほうがいい。
彼女と並んで歩き出し、私はすぐに彼女の手を繋いだ。
彼女は何の反応もせず、会話をしながら歩いている。
拒絶されると思った私は、少し呆気にとられた。
彼女が手を繋いでいる腕にバックを抱えていたので、冗談半分に「手を繋ぎにくいから、逆腕で持てば?笑」と言った。
(ダメ出しするならしてみろ…)
もはや、私は開き直っていた。
彼女は荷物を逆腕にかえ、手を繋ぎ直す。
よーし…風向きが変わってきたぞ。
男性がお酒を飲んだ後、女性と手を繋いで散歩するというシチュエーション。
このとき、男性の行動パターンは次の3つだろう。
①ラブホテルに向かう。
②人気のない場所でキスを迫る。
③話をして駅に向かう。
今回私が狙うのは、当然①である。
しかし…そこは初めて降り立った駅。
どこに何があるかなんてさっぱりわからない。
「うーん、善戦もここまでか…」と思って天を仰いだとき、ある方角のビルの谷間にネオンの看板が見えた。
(天は我を見捨てず…。笑)
私は彼女の手を引いて、ネオンの看板方向に向かって歩き出す。
途中人気のない暗闇で、彼女を引き寄せて口づけを試みるが、拒絶されることはなかった。
再び歩くが、彼女は黙って着いてくる。
ラブホテルを目の前に「入るよ」と言うと、彼女は「時間は大丈夫?」とだけ言った。
部屋に入ると、彼女は煙草に火をつけ寛ぐ。
煙草を吸い終わった彼女を背後から抱き締め、激しく唇を吸って舌を絡める。
愛撫を加速させていき、1枚1枚彼女の服を脱がせ、上下の下着のみとなる。
ここまでは日記の閲覧者なら、添付されている写メで彼女の下着姿を見ることは可能だ。
しかし、ここから先は限られた者にしか見ることはできない。
言うならば、未知の領域である。
対価
彼女の髪をかきあげ、両手で頬を引き寄せ、もう1度口づけをかわす。
そのまま、唇を彼女の顎から首筋に這わせ、胸に到達する。
ブラジャーと肌の隙間に唇を潜りこませ、胸の谷間にそって降りていく。
フロントホックのブラジャーを外すと、お椀型の綺麗な乳房が現れた。
グラマーでも垂れないのは、大胸筋が発達している証拠だろう。
左右2つの丸い形を崩さないように、外側に沿って舌を滑らせ、手で揉んでその形を崩していく。
勃起した乳首を、代わる代わる口に含んで弄ぶ。
その後は胸からへそを通り、残っている下着を眺める。
下着の上からそっと口づけて、静かに下着を脱がす。
そう…この光景が見たかった。
私は思わず、手を合わせて拝んでしまった。
彼女は受けて笑ったが、私が「不思議ちゃん」相手に悪戦苦闘していた事は知らないだろう。
寝物語で彼女に聞いてみた。
「なんで、視線を合わせなかったの?」
「見透かされるのが嫌だった…」
そうポツリと言った。
彼女の本音に、初めて触れた気がした。
女性を口説くとき、「イケるか」「無理か」の判断は、自己の経験や相手の反応により決める事が多い。
もし私が、自分の経験則や彼女の様子を見てそのまま判断したなら、とっくの昔に撤退していただろう。
私が最後まで粘ったのは、居酒屋での彼女の3つのセリフがきっかけだった。
これらの言葉の真意は、「好きなら迷わず口説け!」だったのかもしれない。
さて、今回学んだ事。
経験は参考にはなるが、過去の他人のものであり、目の前の本人のものではない。
私の眼に映る彼女の姿は、端的に気持ちを現しているようだったが、フェイクもかけられていた。
自分の「直感」と、相手との「何気ないやり取り」が決め手となる時もあるのだ。
帰りの電車の中で、彼女にお礼のメールを打つ。
彼女からの返信は、「ごちそうさま」と「おやすみなさい」の2つの言葉のみ。
前のメールと少し違うのは、最後に絵文字でハートマークが入っていたこと。
男性からすれば、女性は永遠の「憧れ」であり、また永遠の「謎」でもある…。
コメントする(承認制です)