
ライター夕花みう
「なんかおかしいんだよね」
今日も出会い系サイトで援助交際をしていた友人Aの話をする。彼女は援交歴こそ長くないが、「ホ別5(ホテル代別5万円)」をかなり上回る金額を毎回稼ぎ出していた女性だ。
Check【出会い系サイト】現役女子大生モデルが援交相手に抱いた叶わぬ恋
そんな彼女はリピーターが大半を占める。月に一度か二度、新しい男性と会うくらいで、ほとんどの男性とは週一ペースで会うことを続けていたという。切られる時も、向こうの金銭的な事情や、パッタリと連絡が無くなるなどの理由が多かったらしい。
Aと毎週会うには20万円のお金が必要になる。それだけのお金をずっと彼女に投資し続けるのはなかなか大変な事だ。
Aを買う男性はどんな人物なのだろう…と野次馬根性に近い気持ちで尋ねてみた。さすがに決定的な事や個人情報に関わる事は教えてくれなかったものの、人となりが想像できるようなエピソードをいくつか紹介してくれた。
なんてゆーのかな…すごく変なプライドがある人なの
とある男性にはルールが存在する。例えば、女性は絶対に俺の左側を歩くべき、食事中はトイレに行ってはならない。車の乗り方から喘ぎ方まで、全部にマイルールがある。
「そんなの苦しくないの?」
「いや、そんな事ないよ。5万も貰ってるしね。言われた通りのことをする」
そうすると、彼はすごく喜んだ表情を見せた。
また、時間にかなりタイトな感性の持ち主らしい。10分前に到着していることが当たり前だった。さもなければ、「常識がない」と機嫌を損ねてしまう。
わたしからすれば、それなら10分前に待ち合わせればいいじゃないか…と思ってしまうのだが、それは違うようだ。その10分は「気持ち」らしいのだ。
「会うのが楽しみだから、早く会いたいからこそ10分早く来る。その心づもりでいて欲しい」
そう出会った頃に告げられたとAは言う。
行為をした後は、特に長居するような事もなかった。が…。
とある日の事。
一緒に車に乗っていると、小さい女の子が車道へ飛び出して来た。
「うわぁあっ!危ない!」
慌てて急ブレーキを踏む。キキーッと軋んだ音がして、車はギリギリの所で急停車した。小さい女の子の後ろから、母親らしき人物が追いかけて来ていた。ホッとひと安心したのだが…
「おい!あぶねえじゃねえか!前見てんのかこのクソガキゃあ!!」
彼は烈火のごとく怒り出したのだ。小さい子供に怒っているとは思えない、ドスの利いた怒鳴り声に、さすがのAも驚いたという。女の子は火が点いたように泣き出した。母親も呆気に取られて声が出ない。それだけ吐き捨てると、また何事もなかったように運転を始めた。
確かに飛び出して来た女の子も悪い。ただ、年端も行かぬような子供である。その子供相手にそんな風に激昂するなんて…と違和感を隠せなかった。
どうしてこの人は、千円札を数えられないんだろう
まだまだこの限りではない。
出会いたての頃、彼とキスをした。その時、変な異物が口の中に入ってきた事に気がついたのだ。
「ん……」
声を出したフリをしながら、さりげなく確かめてみる。
なんと、唇の皮だったのだ…。めくれた5ミリほどの大きな皮が、口の中に入っていたのである。
なんだか変な感じ。なんだか変な違和感。なんだか変な会話。なんだか少しだけズレている。
おかしいと言うほどではないのだけれど、どこかが致命的に狂っていた。
また別の日の事である。Aと行為を終えてお金を払おうとしたその男性が、財布の中を見て舌打ちをした。
どうやら、たまたま千円札がたくさんあったらしい。代わりに一部を千円札で支払っても良いかと申し出てきた。断る理由もないので頷くと、男性は財布の中のお札を数え始めた。
「いち、に、さん、よん、ご、ろく…」
ピタリと手が止まる。
「あれ?何枚目だっけ?」
「え…次で7枚目だよ」
「分からない。忘れちゃったよ、へへっ」
悪びれた子供のように彼は言った。そして同じように数え始める…が、また何枚か数えたところで手が止まった。
「どうしたの?」
「何枚目か、忘れちゃったんだ」
彼は言った。ビックリした事が悟られないように、Aは動揺を隠す。
(どうしてこの人は、千円札を10枚数えられないんだろう)
20分ほど掛かって、ようやく彼は5万円を手渡してくれた。忘れるたびに、Aが何枚目か指摘してあげるのだが…それでは不満らしい。なんとも言えない不気味な感じを覚えた。
(思えば、わたしはこの人のことを何も知らない)
…急に怖くなったのだった。
最後に
その男性との関係は、Aが援助交際を始めてから終わる頃まで続いた。ドライな関係だった。誘われれば会うし、何度か誘いを無視したら、それでもう自然に消滅するだけの関係だ。
実は彼女、今でも出会い系サイトをたまに覗くことがあるという。どうやら彼のアカウント自体はまだ存在しているらしい。彼は何を求めて、月20万円も払って会い続けてくれたのだろうと…Aはたまに思うのである。
コメントする(承認制です)