ライター夕花みう
当時、わたしはキャバ嬢だった。ホテル街を突っ切らないとたどり着かない、“枕推奨”としか思えない繁華街の真ん中に、わたしの店はあった。人通りも多く、盛った頭にヒールで歩くのは恥ずかしい。
おねーさんおねーさん、どこ行くの?そんな急いで
うつむき加減で早々に通り過ぎようとすると、誰かに声を掛けられた。いつもならシカトするのだが、そのときはなぜか顔を上げてしまった。
「おねーさんおねーさん、どこ行くの?そんな急いで」
綺麗な顔のイケメンだった。だが一発で分かる。ホストだ。ロンワンズのジャラジャラしたネックレスやブレスレットを着けているし、服装だってロエン。今どきそんな恰好をする男性はホストぐらいである。
「ホストでしょ?今から仕事行くから、急いでるから、じゃね」
「いやいや、違うよ!アパレルアパレル」
小走りで去ろうとするわたしを追いかけてくるホスト。
(しつこいな)
わたしは舌打ちをした。もう少しで遅刻の罰金が付いてしまう。
「090-…」
「わかった、ありがとっ!」
番号を早口で言い残し、その場は別れた。
その後、何度か業務的な連絡が来たが、それをシカトしているうちに、彼からの連絡はだんだんと来なくなっていった。たまに、彼がキャッチをしている姿を見かけることもあったが、お互いに何となく気まずくて会話はしなかった。
が…数か月後、事件は起こる。
「あたしとあいつ付き合ってるんだけど!」「でもウチだって、エッチしたもん!」
当時、わたしが働いていたキャバクラは少しブラックだった。明らかに挙動不審なメンヘラ、デリヘルとの掛け持ちだと噂されているキャストなど、かなりの問題児が揃っていたのである。
だが、意外にもキャスト同士はとても仲が良かった。待機席でも先輩が声を掛けてくれたり、とにかく雰囲気は良かった…ハズだった。
ある日、キャスト同士が喧嘩をしていた。
「は!?マジでゆってんの?あたしとあいつ付き合ってるんだけど!」
「でもウチだって、エッチしたもん!家にも来たことあるし!」
穏便ならぬ会話である。事情を聴くと、どうやら彼氏が被ったらしい。
その男性は、Aちゃんと付き合いながら、Bちゃんともセフレ関係を継続していたようなのだ。仕事が終わり、Bちゃんの家に頻繁に泊まりに来ては、セックスを繰り返していたそうである。Bちゃんの方も若干気持ちが彼に傾いているらしく、本気で言い争っていた。お盛んな男性である。
奇妙な偶然もあるものだと思ったのだが…彼女たち、実は2人とも店の近くで声を掛けられたと言う。そう、あのキャッチをしていたホストだったのだ。
そのホストは2人を店には呼ばず、会って遊んでセックスをする仲だったらしい。
通常、ホストには「育て」と呼ばれる期間があり、その間は客もしくは客候補の女性にたくさん時間を割いてあげたり、会ってあげたりする。後にお金に繋がる大切な期間なのだが…それにしても下手な育て方だ。手当たり次第としか言えない。
最初は激しく言い争っていた2人も、徐々に矛先がそのホストに向かい始めた。
「まじあいつありえないし!セックス下手なくせに」
「そうそう、自分のことイケメンだと思い込んでる感じがムカつく!なんなのって感じ」
そのホストは残念ながら、セックスのテクニックもイマイチだったらしい。酷評されていた。「女子会の下ネタがエグい」と言うのは本当で、共通の敵を作ったときの女性同士の結束力は半端ではない。
半ば圧倒されながら話を聞いていたわたしだった。
最後に
営業熱心なのか性欲旺盛なのか、今一歩わかりかねるホスト君はご愁傷様だ。
複数の女性と性的関係を持つときは、くれぐれも気をつけて欲しい。店の中では、驚くほどのスピードで噂が回るのだ…。
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