
そのキャスト(以下、K)はわたしの友人と同じデリヘル店で働いていた。いかにもその日暮らしの、だらしない容姿がまず目につく。ガサガサの汚い二枚爪に、マスカラを重ねすぎて埃のようになった付けまつ毛。靴底はすり減って、歩くたびにカンカンと奇妙な音を響かせていた。
友人は、Kと同じ場所で待機したり、同じ車に乗り込んだりするのがとても嫌だったという。いつも金の無心をしてくるからだ。待機場所が一緒になっては金を借り、同じ車に乗り込んではドライバーやキャストから金を借りる。評判は最悪だった。
「ねぇ、3,000円貸してくれない?コンビニ行きたいからさ」
Kがキャストたちに頼む額は、いつもそんなはした金だった。中には「3,000円ぐらいなら…」と貸してしまうキャストもいたそうだが、それが運の尽きである。会うたびに次は5,000円、さらにもう1万円とエスカレートしていく、乞食のような女だった。
何にそれほどお金を遣うのか、ホストである。洗脳されきっていたのか、それとも貢ぎ続けることが自分にできる唯一の愛情表現だと思っていたのかは知る由もないが、Kは歌舞伎町のホストにハマっていたという。
まさかここまでのキャストがいるとは事務所も思っておらず、後にクレームが相次いだため、Kは別待機になったらしい。スタッフも待機部屋が変わってKと話すようになり、彼女の癖が分かってくるとあまり客も付けなくなったという。となれば、給料も当然悪くなる。Kの乞食癖はひどくなる一方だった。
今日するのは、そんな絵に描いたような“地雷キャスト”の話である。
こんなシャワーなら自分で浴びた方がマシだ
入ってくるなり、気だるげにKは言った。
「タバコ吸ってもいーい?」
(なんだコイツ)
Kを派遣されたAさんはそう思ったが、言葉を呑み込んだ。相手をしてもらうキャストなので、できれば雰囲気よくプレイに繋げたいのが男心だろう。
Aさんが許可を出すと、Kはドカッと音を立てて座り、スパスパとタバコを吸い始める。3本目に手をかけようとしたところで、思い切ってこう言ってみた。
「シャワー、浴びない?」
「…そうだねっ」
Kは面倒くさそうに3本目のタバコを揉み消すと、服を脱ぎ出す。なんとも色気がない。恥じらいも何もなく、ただ水浴びをするために、幼児がスッポンポンになるような感覚で脱いでいく。
Aさんは呆気に取られてKを見る。
「何?」
「…いいや。別に」
(これは地雷嬢かもしれない)
そう思ったものの、来てしまったものは仕方がない。できるだけ楽しんで帰るのみだ。
だが、シャワーを浴びるとさらなる幻滅が待っていた。アソコの洗い方がいい加減なのだ。ボディソープを形だけ付けて、2、3回擦るだけである。
(こんなシャワーなら自分で浴びた方がマシだ)
イライラを募らせながらも、Aさんはベッドに移動した。
ね、本番したよね?ちゃんと払ってよ、1万円
キスをしようとすると、顔をそむけられた。明らかに避けられている。
「あのさぁ…」
文句を言う前に、Kが馬乗りになってきた。いきなりパクリと咥えてくる。が…それも一瞬、湿らせただけに近い。
すると、なんと驚くべき事に勝手に挿入してきたのだ。いつの間にかコンドームも着けられている。
「ちょっと、ちょっと!」
本番ができたのは嬉しいものの、何の快感もない。いつの間にか挿入されていたので、まだ半勃ちである。しかも、Kの方もまったく濡れていない。これでは痛いはずだ。
案の定、Kは顔を顰(しか)めている。だが、自分から挿れておいてまったく動こうとしない。上に乗っているだけだ。
Aさんは仕方なく、腰を動かしてなんとか果てた。オナホよりも虚しい、そんなセックス。
すると次の瞬間、Kはさらにこう言った。
「ね、本番したよね?1万円」
「は?」
Aさんは耳を疑った。確かにこの界隈では、「本番はプラス1万円」というのが一般的な相場だ。
だが、今回は状況が違う。勝手に挿入されて、勝手に1万円を請求されても筋違いというもの。Aさんは本気で苛立ち始めた。
「本番も何も…勝手に挿れてきただけじゃないか」
「でもイってんじゃん。だから、ちゃんと払ってよ、1万円」
「財布にそんな入ってないし」
本当だった。Aさんはたまたま、持ち合わせが残り7,000円しか無かったのである。払うに払えない。これで逃げようと思った。
「じゃ、5,000円は?」
なんと、Kはディスカウントを始めたのである。ここでAさんもドン引きした。一銭でも多く、なんとか客から搾り取ろうと必死なのだと。
「好きにしろよ。2,000円は飯代にしたいから残しておけよ」
コクリと頷き、財布に手をかける。すると、何やらKの動きが止まった。また何かあるのかとウンザリした、その瞬間の事である。
「Suica、いくらか入ってるでしょ?もらってってもいい?」
勝手に円盤、クレーム続出
Kのこのやり方は、当然ながら評判最悪である。本番した事を店に告げてしまうと罰金を取られかねないため、彼女の言う通り、素直に1万円を払ってしまう客も多かったようだ。
しかし、中には猛者もいるもの。憤慨して店に電話をかけた者も何人かいたようだ。そのクレームの一度目は半信半疑だったものの、あまりに本番強要の話が重なるので、次第に店側も平謝りになってゆく。
また、こんな事件もあった。客からもキャストからも評判の良いおじいちゃんドライバーがいたのだが、彼は高齢のために安全運転を心掛けている。他のドライバーが道路規則を破って飛ばしてしまうのとは反対に、制限速度を守り、しっかりと迎えに来ることでも知られていた。
そんな彼の車が、ある日ボコボコにヘコんでいたのである。わたしの友人が尋ねると、なんとあの地雷キャストKに蹴られたとの事。
「早く迎えに来なかったから延長が取れなかった!」
「延長分の給料はどうしてくれるんだ!」
そう言いながら車の中で大暴れされたらしい。店側にも客側にも迷惑をかける、最悪なキャストだった。
その後、彼女はどうなったのか…?
実を言うと、自殺したらしいのだ…。
貢げる金が底を尽き、店を変わっても稼げず、彼女はついに歌舞伎町のビルから飛び降り自殺をしてしまったらしい。
最後に
何が彼女をホストに、金にそんなに執着させたのだろうか。彼女の行いは確かに最悪なのだが、逆を言えば、それほど純な気持ちで異性を想える、素直な女性だったのかもしれない。
お悔みを申し上げる次第である…。
因果応報では?
yasuさん、コメントありがとうございます。確かに、かなり汚い方法でお金を稼いでいたことには変わりないですね…。